眠り姫

阿部ちゃんは精一杯いつも通りに話す俺をしばらく見つめ、それからゆるゆると手を伸ばしてきた。

その手を取って口付けると阿部ちゃんの瞳は急に揺らぎ

💚「夢だった…」

という一言と共に涙を溢れさせた。

🖤「どうした？」

宥めようとするけど、こんなに泣く阿部ちゃんを見たことがなくてどうしてあげたら良いかわからない。

佐久間くんとしょっぴーも、もちろん康二もびっくりして涙が引っ込んでいる。

抱きしめるくらいしかできない俺の横に、岩本くんとふっかさんが来た。

💜「阿部ちゃん、ゆっくりでいいからね」

💛「とりあえず気が済むまで泣いてから話しな」

2人は一緒に背中をさすりながら穏やかに話しかける。阿部ちゃんは聞こえているようで、泣きじゃくりながらうんうんと頷いた。

どれくらい経っただろうか。

💚「夢を見てて」

と、阿部ちゃんが話し出した。

夢の中で俺が突然見えない何かに無理矢理連れて行かれて、追いかけたけどたどり着いた場所は真っ暗な空間で、前に進んでいるのかもわからなくなった。

めめに会いたいと願ったら誰かに『もういらない』って言われて、何もしたくなくなった。

黒い大きな手がたくさん伸びてきてずっと押さえつけられてたけど、もうどうでも良くてされるがままでいて、誰かに会いたかったけど誰を探していたかも忘れてしまった。

でも、急に一筋光が差して、そっちの方から伸びてきた手を取らないとと思った。

手を取ったら光の方に引っ張り上げられて、だんだん視界が開けて、最後にめめに名前を呼ばれて、あぁ、めめに会いたかったんだと思い出して目が覚めた。

話を聞きながら、俺の事を忘れてしまっていたと知って涙が止まらなかった。

つくづくあの彼女は軽い気持ちでなんて事をしてくれたんだろうと思う。

🖤「怖かったよね。もう離さないから」

💚「うん……」

思いが溢れてもうみんなの前だろうがお構い無しに何度もキスをした。

それから、体感一晩であろう阿部ちゃんに実に2週間近く眠っていたと伝えると急に冷静さを取り戻し『振り入れは？収録は??そもそも、ここどこ???』と慌て始める。

それを見て、やっとみんなの空気もいつもと同じものに戻っていった。

件の彼女は重大なコンプライアンス違反という名目で無期限謹慎になり、本人は戻ってくる気満々らしいがいずれ契約解除になるという。

今すぐ契約解除して失うものがなくなったら逆に何をするかわからないから、と聞かされた。

何も知らない阿部ちゃんは『この人、最近よく出てたのに急だね』と言いながらニュースを聞いていた。

そして占いのコーナーに移り、最下位だったらしく今日の運気を良くするおまじないを真剣に見ているのでついつい後ろから抱きしめてしまう。

🖤「そんなのに頼らなくても、俺の傍にいるんだから阿部ちゃんは毎日幸せでしょ」

💚「それもそうか」

納得してテレビを消す姿にホッとしたと同時に、御伽噺のお決まりフレーズが頭に浮かぶ。

そうして王子様とお姫様は、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。

🖤「めでたしめでたし」

💚「え？」

終