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第三十九章
繋がる想い
―暴かれる代償―
朝の光が、静かに食堂へ差し込む。
いつもと変わらない朝。
けれど、昨日までとは少しだけ違っていた。
「……」
煉華は窓の外を眺めながら、小さく息を吐く。
みんながくれた言葉。
――独りじゃない。
その言葉が、今も胸の奥に残っていた。
「……私、何を怖がっていたんだろう」
失うこと。
変わってしまうこと。
皆を傷つけてしまうこと。
考えれば考えるほど、不安に押し潰されそうだった。
でも。
「……私には、帰る場所があるんだ」
小さく呟いた時。
「煉華?」
肩を抱いていた蒼紫が、心配そうに顔を覗き込む。
「大丈夫?」
「うん……もう大丈夫」
蒼紫は優しく微笑んだ。
「なら、良かったわ」
その笑顔を見て、煉華はふと思う。
蒼紫だって怖くないわけじゃない。
琥珀も。
詞葉も。
きっと、誰もが不安を抱えている。
それでも、隣にいる。
「蒼紫……」
「何?」
「怖くないの?」
一瞬。
蒼紫の表情が止まった。
「……怖いわよ」
静かな返事だった。
「この力を使った先に、何が待っているのか分からないもの」
蒼紫は、自分の手を見つめる。
「何を失うのかも……分からない」
その言葉に、煉華は息を呑んだ。
「でも」
蒼紫は顔を上げる。
「それでも、守りたいものがあるから」
風が二人の間を通り抜ける。
「私だけが怖がって、皆を遠ざける方が……きっと辛いから」
煉華は思い出す。
昨日、自分が言われた言葉。
――独りじゃない。
「……蒼紫」
「ええ」
まだ終わっていない戦い。
そして、それぞれが向き合うべき覚悟。
その先に待つものを、まだ誰も知らなかった。
◇ ◇ ◇
「今日もいい天気だよねー。木陰で昼寝したいなー」
琥珀が空を見上げながら呟く。
「それ、気持ち良さそうですね。お昼はそうしましょうか」
詞葉が微笑む。
それぞれ新たな想いを胸に、宿屋を後にした。
いつもと変わらない朝。
小鳥の声。
小川のせせらぎ。
琥珀と詞葉の楽しそうな声。
少しため息混じりに笑う蒼紫。
そして、それを静かに見つめる羅刹。
穏やかな時間。
そのはずだった。
――でも。
「(遠くから聞こえる……)」
煉華は歩きながら、周囲の音に意識を向ける。
声ではない。
何かを話しているのだろう。
けれど、はっきりとは分からない。
まるで、自分の周りだけ透明な壁で囲まれているようだった。
「(私だけが……)」
考えないようにする。
いつも通りでいようとする。
そう思えば思うほど、その壁は厚くなっていく気がした。
「ね、れーんーげ♪」
琥珀が笑顔で手を伸ばす。
「お昼は木陰でお昼寝して、ご飯を食べようね」
「……!」
煉華は驚き、そして微笑んだ。
「ええ。とても楽しそう」
一人で俯いていた。
勝手に一人になっていた。
でも。
ちゃんと見てくれる。
傍にいてくれる。
繋いだ手から伝わる温もりに、涙が出そうになるのを煉華は堪えた。
「……その前に」
蒼紫が足を止める。
「やるべきことをやりましょう」
静かに扇を構える。
周囲の気配。
あまりにも静かすぎる。
その違和感に、蒼紫は気づいた。
「……!」
「上!」
琥珀は繋いでいた手を離し、双剣へ持ち替える。
次の瞬間。
上空から振り下ろされた拳を受け止めた。
「女ぁ……俺の気配に気づくようになったか」
現れた刀骨は、口元を歪める。
「っ……あなたは……」
琥珀は歯を食いしばる。
「真っ直ぐ……あたしだけに殺気を飛ばしてくるから……!」
「(重い……身体強化の祝詞を……でも……)」
一瞬の迷い。
その隙を、刀骨は見逃さなかった。
双剣と拳がぶつかり合う。
それでも、刀骨の重い蹴りが琥珀の脇腹へ叩き込まれた。
「……っ!」
声も出せず、琥珀の身体が吹き飛ぶ。
「琥珀!」
煉華が叫ぶ。
その瞬間。
「正解ですわ。青龍の巫女ちゃん」
背後から、冷たい声が響いた。
「あなたが動けば、朱雀の巫女ちゃんの首が落ちていましたわ」
いつの間にか。
赫夜が煉華の背後に立っていた。
首筋へ当てられる刃。
「私が背後を取ったこと……気配で分からなかったのかしら?」
赫夜は煉華の耳元へ唇を寄せる。
そして、煉華だけに届く声で囁いた。
「それとも……聞こえなかった?」
その瞬間。
煉華の身体が大きく震えた。
背中を冷たい汗が伝った。
コメント
1件
読んだよ〜〜!!第59話、めっちゃエモかった😭💕 煉華の「独りじゃない」って気づきから、蒼紫の告白シーン、心がギュッてなった…!「私だけが怖がって遠ざける方が辛い」って台詞、もうこういうのずるいよ〜〜😭💖 そしてラストの赫夜のぞくっとする問いかけ!「聞こえなかった?」って最後の一言で空気一変するの、痺れた……続きが気になりすぎる!!