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次の話で100話かぁ・・・長いようで短かったな・・・。
窓の外は、横浜の街を藍色に染める夕暮れ時だった。ポートマフィアの最年少幹部、太宰治の自宅——正確には、中原中也と同棲しているマンションの一室は、静寂に包まれている。
いつもなら、不愉快なほど元気な相棒の罵倒や、重力使いの重い足音が響いている時間だが、今日の中也は任務で帰りが遅い。太宰は一人、リビングのソファに深く沈み込み、所在なげに天井を見つめていた。
「……あぁ、暇だ」
呟きは、ひっそりとした部屋の空気に溶けて消える。本来なら、中也のいない静寂は太宰にとって「静かで良い」はずのものだった。しかし、同棲を始めてからというもの、この静けさが妙に肌寒く、落ち着かないものに変わってしまった。
太宰はふと、自分の中に澱のように溜まっている熱に気づく。それはここ数日、多忙ですれ違っていた中也に対する、自覚したくないほどの執着と欲求だった。
「……最低だね、私は」
苦笑しながら、太宰は吸い込まれるように自分の寝室へ向かった。中也の香水の匂いが微かに残る寝室。そのベッドに倒れ込み、シーツに顔を埋める。中也の体温を思い出すだけで、下腹部が熱く疼いた。
一度意識してしまうと、もう止められなかった。太宰は震える手で、自身のズボンのベルトに指をかけた。
静かな部屋に、太宰の浅い呼吸音だけが響く。
「ん……ぁ……」
シーツを強く握りしめ、太宰は目を閉じた。脳裏に浮かぶのは、いつも自分を真っ直ぐに見つめてくる、あの燃えるような青い瞳だ。自分を組み伏せ、乱暴に、けれど慈しむように抱きしめる中也の腕。耳元で囁かれる、低くて熱い声。
中也との情事を思い出すだけで、身体の芯がとろけるように熱くなる。太宰は自分の胸元を片手でなぞり、もう片方の手で自身を扱いた。細い指先が、普段の冷徹な彼からは想像もつかないほど熱を持っている。
「中也……ちゅ、や……っ」
名前を呼ぶだけで、快楽の波が押し寄せてくる。自分一人でする行為は、中也に抱かれる時の充足感には到底及ばない。けれど、足りないからこそ、その飢餓感がさらに太宰を追い詰めた。
腰が自然と浮き、太宰の背中が弓なりに逸れる。視界は涙で潤み、頬は林檎のように赤く染まっていた。
「あ、は……っ、んんっ!」
絶頂が近づく。思考が白く塗り潰され、ただ快感だけが全身を駆け巡る。あと少し、あと少しで、この苦しいほどの熱から解放される——。
その時だった。
カチャリ、と玄関の鍵が開く音が、静まり返った部屋に響いた。
「おい太宰、ただいま。……ったく、連絡くらい寄こせっつーの」
聞き慣れた、けれど今は一番聞いてはいけない声。中也が帰ってきた。
太宰の心臓が跳ね上がった。全身の血が引いていく感覚と、逆に昂ぶっていた神経がパニックを起こす。すぐにでも隠れなければ、服を整えなければ。そう思うのに、絶頂の淵にいた身体は思うように動かない。
「太宰ー? 居るんだろ」
足音が近づいてくる。リビングを通り過ぎ、寝室のドアへ。
「返事しねえのは寝てんのか……?」
「ま、まって、中也、こっち来な……っ」
太宰の声は、かすれた悲鳴のようだった。けれど、それが逆に中也の懸念を煽ったらしい。
「あ? なんだ、体調でも悪いのかよ」
勢いよく、ドアが開かれた。
「…………は?」
部屋の真ん中で、中也が固まった。
ベッドの上、乱れたシャツの間から白い肌を晒し、自身に手をかけ、涙目でこちらを見つめる太宰。部屋には、彼自身の情欲が混じった甘ったるい空気が漂っている。
太宰は凍りついたように動けなかった。握りしめたままの手、露わになった欲望。言い逃れなど、一ミリもできない。
「あ……ぁ……」
あまりの羞恥に、太宰の顔が一気に火を噴いたように赤くなる。彼は慌ててシーツを被り、身体を丸めた。
「ち、ちが……っ、違うんだよ、中也……!」
「……何が違うんだよ、おい」
中也の声が、低く弾んだ。
太宰がおそるおそるシーツの隙間から顔を出すと、そこには驚愕の表情ではなく、見たこともないほど嗜虐的で、楽しげな笑みを浮かべた中也が立っていた。中也はゆっくりと、獲物を追い詰める肉食獣のような足取りでベッドへ近づいてくる。
「なんだよ、太宰。お前、俺が居ねえ間に一人でそんなことしてたのか?」
「や、やめて、言わないで……!」
太宰は顔を覆った。指の隙間から見える中也の瞳は、太宰の醜態を余すことなく楽しもうとしている。
中也はベッドの縁に腰をかけると、太宰の細い手首を掴んで、無理やり顔から引き剥がした。
「ナニしてたんだよ? 言ってみろよ」
「……っ、っ」
「ほら、言わねえと分かんねえだろ?」
中也の指が、太宰の耳元を熱く撫でる。ニヤニヤとした笑みが、太宰のプライドを粉々に砕いていく。
「……じ、じい……してたんだよ……。それで満足……?」
消え入りそうな声で白状すると、中也はさらに声を弾ませた。
「へぇ、自慰ね。あの『冷血な死神』様が、俺のいねえ間にムラムラして我慢できなくなったってか? 傑作だな」
「もう、ほんとに、やめてぇ……っ、中也のいじわる、バカ……っ」
太宰の目尻から、ポロリと涙が溢れた。羞恥と、中也にすべてを見透かされている屈辱。けれど、その中也に見つめられているという事実が、先ほど中断された熱を再び呼び起こしてしまう。
中也はそんな太宰の変化を見逃さなかった。彼は太宰の顎をクイと持ち上げると、至近距離でその潤んだ瞳を覗き込む。
「気持ちよかったか? ん?」
「……っ……ぁ……」
「俺を思い出してたんだろ? どんなこと考えてたんだよ。言えよ、太宰」
「言えるわけ、ないじゃないか……っ! もう、死ぬ、恥ずかしくて死んでやる……!」
ジタバタと暴れる太宰を、中也は軽々と組み伏せた。重力を使うまでもない。太宰は中也の腕の中で、ただの「愛されている男」に成り下がっていた。
「死なせねえよ。……まだ、やりかけなんだろ?」
中也の手が、太宰の太ももの内側を這い上がってくる。太宰はビクンと身体を震わせ、中也の肩に顔を埋めた。
「……あ、ダメ、中也、自分でやったばっかりだから、過敏に……っ」
「知るか。俺を差し置いて楽しもうとした罰だ。たっぷり可愛がってやるよ」
中也の言葉は、宣告だった。
その後、太宰がどれほど泣いて縋っても、中也は許してくれなかった。
中也の愛撫は、普段よりも執拗で、底意地が悪かった。太宰が自分で触っていた場所を重点的に責め、彼が一番弱い場所を容赦なく突いてくる。
「ひ、あ、あぁっ! ちゅ、や、待って、おかしくなっちゃう……!」
「おかしくなれよ。俺のことだけ考えて、全部吐き出せ」
中也の熱い舌が太宰の鎖骨を這い、首筋に深い痕を残していく。太宰はもう、拒絶する言葉を持っていなかった。ただ中也の背中に爪を立て、その名を呼び続けることしかできない。
やがて、中也が太宰の身体を割って、その内側へと侵入してきた。
「あ……っ、ん、あぁぁああ!!」
太宰の視界が火花を散らす。自分で慰めていた時とは比較にならない、圧倒的な充足感。身体の芯まで貫かれ、支配される感覚。
「太宰、見てろ。俺がお前を抱いてるぞ」
中也が太宰の耳元で低く囁く。その声に、太宰は抗いようのない愛しさを感じてしまった。
「ちゅう……や、だいすき、中也……っ」
羞恥心など、とっくに快楽の彼方へ吹き飛んでいた。太宰は自分を、中也という熱の中に全て投げ出した。
何度も何度も、果てるまで抱き合って。
結局、太宰が解放されたのは、日付が変わる直前のことだった。
静まり返った寝室。事後の気だるい空気が漂う中、太宰は中也の腕の中で、ぐったりと横になっていた。
「……酷い目にあった」
太宰が掠れた声でこぼすと、中也は満足げに鼻を鳴らした。
「自業自得だろ。俺を待ってりゃ、最初からこうしてやったっつーの」
中也の手が、優しく太宰の髪を撫でる。その手つきは、先ほどの意地悪な尋問が嘘のように甘かった。
「……でも、中也。帰ってきた時、すごく楽しそうだったね」
太宰がジト目で睨むと、中也は少しだけバツが悪そうに視線を逸らした。
「……お前があんなに隙だらけだったこと、ねえからな。つい、な」
「最悪だ。明日からどんな顔して会えばいいんだよ」
「いつも通りでいいんだよ。どうせ、俺しか知らねえんだから」
中也はそう言うと、太宰の額に軽くキスを落とした。
「……おい、太宰」
「何?」
「また今度、俺の目の前でやってみせろ。今度は最後までな」
「………………死んでも嫌だ!!!!」
太宰の絶叫が夜の寝室に響き、中也は今日一番の快哉を上げて笑った。
窓の外では、横浜の街の灯りがキラキラと輝いている。その中の一つ、この部屋だけは、いつまでも熱を孕んだまま、二人の幸せな時間を刻んでいた。
結局のところ、太宰は中也に勝てない。
そして中也もまた、太宰を愛さずにはいられない。
そんな当たり前の事実を、改めて刻み込むような、最低で最高な夜だった。
コメント
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ノベルでの喘ぎ声苦手って言ってたけど上手くなってない?!