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パチリと目が覚めて、時計を見ようとするが、いつも時計がある場所に時計がなかった。少しあたりを見回してから、引っ越したのを思い出した。仕方なく、スマホの時間を見ると6時1分であった。隣で寝ていた雫はくーすか くーすかと眠っていた。優也を起こし走りに行く。この時期が走るのに最も適した季節だと思う。日が軽く上り、暑くなりはじめた頃に、家に帰った。
鍵を指して回したが、ドアに鍵はかかっていなかった。
最悪の事態に備え、殺しあえる準備をしてからドアを開け、リビングに入ると萩野がいた。
いつも持っている茶色のアタッシュケースをソファーにおき、彼女自身もソファーの上で数十万円程するワインを、持参してきたのだろう数百円のスナック菓子で飲んで、頬が少し赤くなっていた。
もう少しいいおつまみなかったのか。と、問いたくなる。
「〈鴉〉といい、萩野といい、お前ら人の家に入るのに快楽でも覚えてんのか?」
「ひどい言い方じゃない?〈百舌鳥〉?今日はちゃんとした任務内容について伝えに来たんだよ」
「ワインを持ってきたのは?」
「伝える最中にアルコールは必須じゃん?」
「不要だ」
「必要だよ。まぁ、そんなことはどうでもいいことなんだよ。」
萩野は改めて、きれいにソファーに座ってからもう一度口を開いた。
「今年度は世界の危険となりえる可能性があるものを排除してくれたことを感謝します。来年度もよろしくお願いいたします。」
「はいはい」
「今回は3年前の任務を引き続き行うけど、3年前とは違い情報を引き出せれば引き出せるほどいいから、付き合ってもOK。3年前と同じ設定どおりにこれからも過ごしていって。3人は昔引き取られた。名前と過去は昔と同じ〈梟〉と〈百舌鳥〉は今までと変わらず、『畠中 幸人』と『畠中 康介』〈鴉〉は3年ぶりだけど『畠中 日向』。一人を除いて前と同じ年齢順だよ。幸人 日向 康介。誰がどの顔なのかは、この世界を何年も生きてきたんだから、わかることを祈る。」
「「「了解」」」
「‥‥〈梟〉と〈百舌鳥〉‥‥いや、やっぱりいいや。何でもない。」
萩野さんはなぜだか首を振った。
いつもなら用件を伝えてから2時間ほど無駄に長居するのに、今日は用件を伝えてすぐに帰っていった。そして帰りに、「人の心を知りなさい」そう言った。夕食を食べて自分の部屋に入り、就寝準備をした。まだ八時であったため、あまり眠たくはない、小説でも読もうかと、部屋にある本棚を見ているとコンコンと部屋のドアがノックされることなく開かれ、優也が中に入ってくる。本棚の一番下の棚に置いてある玩具を入れている籠を引き出し中からトランプを2つを取り出す。
「ゲームをしない?」
優也に向けて言うと、即座に「分かった」と返ってきた。トランプケースを2つポケットにいれ2階から1階へと続く階段の下にある部屋の床下収納のようになっている床板を外し、梯子を下りていくと中はコンクリート丸出しの部屋に着く。すぐに優也も下に降りてくる。ポケットから出したトランプケースの一つを優也に渡す。優也はそれを受け取って、慣れた手つきで一枚を取り出す。ちなみにこのカードはすべて物質硬化が付与されたうえで研磨されている。そのため、まったく練習などをしていない人がカードの淵を触った場合、ザックリと切れるのである。キャンプなどで包丁を持っていない場合は大根を切ることにも役立つのである。
カードケースをパカリと開けて、上から1枚とり、ダーツを投げるような投げ方で人の形をした木の板に向かって投げる。いつも通り、ボロボロになった胸の辺りにドスリと刺さり、貫通した。また上から2枚抜いて、2枚を違う方向に同時に投げる。両肩にドスリ ドスリと刺さり貫通する。ドスリ ドスリ ドスリ ドスリ ドスリ優也が投げたカードがすべて別々に首 脳 心臓 両腕をとらえていた。この時の優也の目には何年相棒をやってきても、見るたびにゾクッとし慣れることは無かった。鋭利で、人の急所を即座に理解し的確に打つ。その打つ手や目に迷いの無さや正確さはまるで機械のようだ。
カードをすべて使い切り、カードをすべて抜きカードケースの中にしまう。
コンクリートの上にカードケースを2つおいて立てかけてある木刀を3本とって腰につける。右側の腰付近に短い木刀、左側の腰付近と後ろの腰にある程度の長さのある木刀。
優也も僕も最初は左の腰付近にある木刀を構えて互いの喉元へ向ける。フッと息を吐いて優也が動く。
スッと退いて、優也の腹部に木刀を入れようとすると、ふわりとよけられた。僕と優也と木刀を交わせるのは、おそらく1000回では済まないだろう。だからというわけではないが、僕は優也の動きがわかってそれに対応する方法も知っているが、優也に勝ったことは数回ほどしかない。
別に優也がどのような行動をするかがわかって、対応する方法を知っていても圧倒的強さには勝てない。だがしかし、勘違いしないでほしいのは僕が弱いわけではないという事。そして、僕は3分間ほど戦い、5分ほど時間をもらえれば、相手がどのような行動をするかがわかって、対応する方法を知ることくらいはできる。まぁ、雫はたぶん1分戦っているのを見て10秒ほど時間をあげれば、3分間ほど戦い、5分ほど時間をもらった僕と同じレベルの事はわかるだろう。まぁ、簡単に言うと、僕は運動では優也に負け、勉強では雫に負けてしまう。僕はそんな中途半端な位置にいる人間である。
僕と優也は踊るようにして戦う。それぞれの方でマニュアル化されており、時々マニュアルから外れるのが凶と出るか吉と出るかである。そして、僕らは戦闘中にできるだけ早く相手に勝つ方法が欲しいため、場所と打ち方にそれぞれ番号が振られていて、それを雫が言うことで行動することが昔は多かった。
カンッと音がして僕と優也の木刀がぶつかり、僕の木刀が空を舞い後ろに転がった隙に優也が大きく振りかぶり、殺されそうになったところを何とか後ろの腰付近に付けたある木刀を抜き、何とか耐える。そして、またマニュアル通りに進める。
静かに優也を壁の角にどんどん押しやり、首に木刀の先を突き付け、勝ちを宣言しようとしたとき腹部に蹴りを入れられ、ばたりと倒れたところを、木刀を首に突き付けた状態で優也は勝ちを宣言した。
また負けた。まったく、相変わらず桁違いの化け物だ。ちなみに、言うのを忘れていたが、優也と僕は変異者である。そして、変異者を僕は優也以外にあったことがない。優也と僕は違う力を持っている。優也は《■■》僕は《■■■》それぞれが名前を持っている。言う必要はないと思うが、〈百舌鳥〉〈鴉〉とは別である。一つ言うと、雫は、変異者ではない。
落ちた木刀を拾い、壁にたてかけておいておく。梯子を上りきると、階段の下の部屋にたどり着く。シャツがベッタリと服に張り付く感じが気持ち悪い。風呂に入ってから部屋に入ると、雫が僕の部屋の本棚を漁っていた。
「何をしているの?」
そう僕がそういうと、雫は驚き、くるりと振り返った。
「‥‥本を漁ってたんだよ。」
「でも、この部屋に雫が好きなファンタジックなものは置いてないよ。」
「わかってるよ‥‥」
話の最中に何げなく雫がしまおうとした本を雫の腕をつかんで止めると、それはアルバムであった。中学の卒業アルバムではない。僕と椿と雫と優也の4人組だった時のアルバムである。
「何を見ていたの?」
「みんなとの思い出。」
「3年前の事かい?」
何とも言えない、沈黙が僕らを襲った。僕らが193名を葬り去ったことである。あまり思い出したくないことかもしれない。もしくは、その原因かもしれないが。まぁ、3年前の事件については時が来れば分かるだろう。
そのまま何も言わず、雫は僕の部屋から出てって行った。
少々気になって僕も1年ぶりにそれを開いた。椿 優也 雫 僕。みんな笑っている。あの頃の僕らは、そんな日々が当たり前で、そんな日々が大人になるまでずっと続いて、大人になってもみんな仲良しでいられると思っていた。当たり前は、まず大前提であり、城で言う石垣のようなものである。だから、石垣の一部が崩れたり、欠けたりした時、いとも簡単に城は崩れてしまう。そして、崩れた時に代償はモノによって異なるが、被害を及ぼす。そして、城は大きければ大きいほど崩れて時の被害は甚大になりやすい。たったそれだけの事である。
そう思いながら、ぱたりと丁寧にアルバムを閉じ、本棚に戻した。
5年前から、あまり泣かなくなったな。ベッドの上にあおむけに寝っ転がりながら、そんなことを思っていると、そのまま眠ってしまった。