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「俺のほうが最高の抱き心地だろう?」
「まあ、一番落ち着くのは事実ね」
「だろ」
にい、と笑う姿は前世のラフェドとそっくりだ。思い出してきているのか、それとも元々素の彼を引き出すことが出来たのか──私には判断が付かない。
***
「アルベルト様! こちらにいらしたのですね」
黒の司祭服に鳶色の短い髪に、ヴィオレ色の瞳は美しくもあるが、何とも艶めかしい。中々に背徳感を煽る姿はやはり目を引くようで、アルベルト様が立ち止まると待っていましたとばかりに、白の修道服を着こなした美女たちが声をかけてきた。
(私の刺繍とは色合いが銀色や黒……違うわね。階級? それともカテゴリ分け?)
私と同じ服装ということは聖女候補なのだろう。
尤も刺繍の模様や色は異なり、金髪の美しい少女は銀色のベルと鳩の刺繍。赤毛で利発そうな少女は、黒の蜥蜴と薔薇の刺繍。栗色のキツそうな顔立ちの少女は、緑の牛とアイリスの刺繍でそれぞれ異なる。
(もしかして支給されている服装にも階級とかがあるのかしら? 今回召喚させられた聖女候補は……この中にはいない。……んー、私から挨拶すべき? でも誰とも視線が合わないのよね)
「実は今年の春迎えのダンスなのですが、まだお相手の方が見つからなくて……」
「宜しければ私たちと踊って下さいませんか!?」
(おお、ぐいぐいくる。まあ私のことは眼中にないのね。……アルベルト様がどう対処するのかしら?)
春迎えがどのような祝祭なのか不明だが、とりあえずダンスパーティーのような華やかなものなのだろうと、勝手に想像を膨らませていた。
「悪いが俺はシルヴィアに求愛していて忙しい。ダンスの相手は別を当たれ」
「「「!?」」」
(直球!)
「俺は彼女を伴侶にすると決めている。……万が一にでもシルヴィアに手を出せば竜王を含めた人外の敵になるだろうし、彼女の実力ではお前たちは死ぬだろうから手を出すなよ」
物騒な自己紹介をされたが、せっかくなので悪役令嬢役で鍛えた令嬢モードに切り替えた。
「まあ、アル。それではまるで私が血も涙もない人間みたいじゃないですか。初めまして皆様。シルヴィア・ローレン、元公爵令嬢と申します。戦闘レベルは軽く100オーバーですので、決闘でしたらいくらでもお受けしますわ」
「──っ」
「公爵家っ……」
「なっ」
身分、能力共にそれなりにあるのとシルヴィアは元々美人さんなので、非の打ち所のない所作で彼女たちに挨拶をする。喧嘩を売るつもりはないけれど、仕掛けてくるなら容赦しないぞ、と牽制を懸けるのも大事だ。
(それはそれとして女友達はほしいので、教会に顔を出しつつ気が合う事仲良くなろう)
「くくっ、さすが俺の伴侶」
(いやまだ伴侶じゃないですが)
アルベルト様はご機嫌だ。まあ私の感情を味わって楽しんでいるのが大半な気がするけれど。ここでアルベルト様の背に隠れるような人間だろうと、そうじゃなかろうと集団で呼び出される可能性もあるので強気に出た。
案の定、その場にいた三人の聖女候補たちの空気が冷ややかなものになる。これは表面上仲良くしようという魂胆すらないのだろう。分かりやすい反応からして、この三人は貴族令嬢ではない、あるいはそういった振る舞いが出来ない──とっても分かりやすい人たちのようだ。
(こっちの聖女候補のほうが、私なんかよりも悪役令嬢の素質があるんじゃないかしら。もう少し早く出会っていれば、ゴミを見るような目とか参考になったのに……)
「何てことでしょう。アルベルト様が求愛なんて……」
「彼女がアルベルト様に迫ったのではなくて? 容姿も普通なのだとしたら、床での奉仕がよかったのかしら?」
(床!? 考えがえぐい! と言うか聖女候補が、そんなセリフ吐いて良いの!? というか聖女って乙女じゃないの!?)
この世界の聖女像が音を立てて崩れていく。生々しすぎる。教会の聖女候補とは思えない会話の内容に卒倒しそうになった。
「大して美しくもないですが……ああ、でも金の刺繍と言うことは、使い魔を得た特別な聖女候補でしょうか」
(あ、やっぱり刺繍の色で階級が違うのね。……にしても言いたい放題。なによりベルナール様のことを使い魔と言い切るのにイラッってする)
どうしてくれるよう。大事な家族を貶されて黙っているほど私は寛容ではない。
「そうか。お前たちの考えは分かった」
「まあ」
「アルベルト様」
「そうですわ、ふさわしのは──」
「お前たちには耳も考える脳みそもないらしい。それならふさわしい北の修道院に送ってやろう。ちょうど人員も不足していると神父が言っていたからな」
(北の修道院?)
その単語が出た瞬間、三人の顔から血の気が引いていくのが見えた。雰囲気的に僻地的な所なのだろう。カチカチと歯を鳴らして震えている。
「その場所だけは……っ」
「申し訳ございません!」
「調子にのりました」
「ああ。その通り、お前たちはシルヴィアの挨拶に対して名乗りもせず、図々しくも意見を言った。発言の責任を取ることもまた聖女候補の務めだ」
アルベルト様の口元から笑みが消えた。ラフェドの時も笑顔が消えた時、とても怖かったのを思い出す。
「だいたい聖女候補だけが選ぶ側じゃない。人外たちだって選ぶ権利はある。俺がそう決めたのに、何故お前たちの意見を聞かなければならない?」
「ある……と……様」
底冷えする眼差しと精神圧に三人の聖女候補は顔色が青くなり、苦しそうに膝を突く。
「アルベルト様。それぐらいにしてあげたらどうです?」
「甘いな。俺がお前に求愛中だといえば、大抵の奴はそれがどういう意味なのか理解する。だがそれを踏み越えてきたのは、こいつらだ」
「そうですけど、それ以前にアルベルト様の素行が悪かったから一時の気持ちの揺らぎとか気まぐれだと思われているのでは?」
「…………」
ぷい、っと視線を逸らしたので自覚はあるらしい。精神圧を辞めた途端、聖女候補たちはその場に座り込んだまま動かなくなった。
「私、一途じゃない人は好きじゃないので」
「本命には一途だが?」
喉を鳴らして笑うアルベルト様の姿に、三人の聖女候補はギョッとした顔をして心底驚いている。こういう軽口の応酬をアルベルト様は好んだ。思えばラフェドもそんな感じだった。
(呪いの効果なのか、どんどん昔のラフェドに戻ってきている気がする)
感情豊かで好き嫌いがハッキリしていて、思った以上に愛情深くてお節介。そして独占欲が強い。そんな私が好きだった彼に眼差しまで似てくるのだ。
心臓がバクバクするのを誤魔化しているが、手を繋いでいる以上伝わっているのだと思うとなんだか腹が立った。
コメント
1件
うわあ、今回も最高でした!シルヴィアの令嬢モード炸裂で「戦闘レベル軽く100オーバーですわ」には思わず声出して笑っちゃいました(笑)アルベルト様の直球求愛も、聖女候補たちに「俺は選ぶ側だ」ってバッサリ切るところも格好良くて…でもその後の「本命には一途」のやりとりに、ラフェドを重ねるシルヴィアの心情が切なくて胸がぎゅっとなりました。刺繍の階級とか教会の空気感、少しずつ世界観が広がっていくのも楽しいです!
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