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秋霧の乱

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秋霧の乱

7 - 第七話 嵐、告げられる

2025年08月04日

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📘《秋霧の乱》


第七章 嵐、告げられる


総裁選の告示日。

私は、立候補届を出さなかった。


いや――出せなかった。


党内の推薦人20人は、前夜までに集まっていた。

だが、提出直前になって3人が名を引いた。


理由は言わない。

だが、誰が“止めた”のかは分かっていた。


官僚か、青山か、あるいは――古本か。





「紘一さん、もういいじゃないですか。」


控室で、山谷が言った。

私と目を合わせず、コーヒーをかき混ぜながら。


「誰かが、あなたの分までやる。」


「誰か」とは、小泉純一郎のことだった。







◆ 街がざわつき始めた


午後、泉が総裁選に正式に立候補した。


記者団の前で、あの男はこう言った。


「自民党を、ぶっ壊す。」




一言で、風が変わった。


拍手が起きた。

メディアが沸いた。

世論調査が跳ねた。


泉は、“言ってはいけないこと”を平然と口にした。


だが、国民はそれを待っていたのだ。





◆ 議員会館・私邸


その夜、一人で昔の演説ビデオを見返していた。


十年前の私が、街頭でこう叫んでいた。


「対話と信頼こそが、政治の基本です!」




……顔が、若い。


だが、何も変わっていない。


私は、ずっと“信じる”政治しか知らないのだ。





山谷からメッセージが届いた。


『ごめん。俺は泉を推す。もう、止まらない。』




読んだ瞬間、不思議と怒りはなかった。

むしろ、“よかった”と思った自分がいた。


あの男が、何かを壊して、何かを生むなら――

私は、それを外から見届ける役でいいのかもしれない。





◆ 加山紘一・最終会見


翌朝、私は総裁選出馬を断念すると発表した。


記者からの質問は容赦がなかった。


「信じた政治では、風は起こせなかったのでは?」




私は、少し笑った。


「風はね……私のやり方じゃ、吹かせられなかった。でも、いつか誰かが、信じる政治に追いついてくれると、今でも思ってます。」


会場は静まり返った。


だが、私はもう、何も怖くなかった。





嵐が吹くとき、人は自分の旗を降ろすか、掲げ続けるかを選ぶ。


私は、旗を掲げたまま――

風の中に立ち尽くしていた。





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