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蒼がいる場所は、東京だった。
ニュース番組の大型ビジョン。
騒がしい駅前。
空を飛ぶ報道ヘリ。
世界中が、“帰還した二人”を追っていた。
蒼はその騒がしさにまだ慣れなかった。
人の多さ。
音。
視線。
全部が三年ぶりだった。
でも。
蒼が気になっていたのは、そんなことじゃない。
悠真。
今どこにいるのか。
ちゃんと無事なのか。
それだけだった。
人混みを避けながら、蒼はビルの隅に座り込む。
スマホを耳へ当てる。
「お前、周りなんか見える?」
電話越し。
悠真が少し考える。
『えっと……坂多い』
「坂?」
『あと海あるかも』
「ざっくりすぎるだろ」
悠真が少し笑う。
でも、その笑いの奥に不安が混ざっているのがわかった。
数時間後。
ニュースやSNSで情報が整理され始めた。
『二人は別々の場所へ出現した可能性』
『現在位置を特定中』
『片方は東京都内で確認』
世界中が探している。
まるで映画みたいだった。
そして。
夜。
蒼のスマホへ、一件のメッセージが届く。
ニュース局からだった。
『もう一人の少年の出現地点が判明しました』
その下に、地名。
長崎市
蒼は数秒、画面を見つめたまま動かなかった。
「……長崎?」
思わず声が漏れる。
東京から、かなり遠い。
地図を開く。
日本列島。
端と端に近い距離。
三年間ずっと隣にいたのに。
帰ってきた瞬間、こんなに離れるなんて思わなかった。
電話をかける。
数秒後。
『もしもし』
悠真の声。
少し疲れていた。
蒼は小さく息を吐く。
「場所わかった」
『え』
「長崎だって」
少し沈黙。
それから。
『……遠っ』
二人とも、同時に笑ってしまった。
あまりにも遠かった。
現実味がないくらい。
『なんでそんな離れてんだよ』
「知らねぇよ」
『せっかく帰ってきたのに』
悠真の声が少し寂しそうで、蒼は夜空を見上げる。
東京の空。
人の音。
車の光。
でも。
三年間一緒だった感覚が、まだ消えていない。
「会いに行く」
蒼が静かに言った。
電話の向こうが少し止まる。
『……え』
「そっち行く」
『いやでも遠いぞ』
「知ってる」
『新幹線とか飛行機とかいるぞ』
「文明すごいな」
悠真が吹き出した。
三年間、誰もいない世界にいたせいで、移動手段のスケール感がおかしくなっていた。
『……ほんとに来る?』
その声は、小さかった。
蒼は少し笑う。
「三年間一緒だったんだぞ」
「今さら県くらいで終わるかよ」
電話の向こうで、悠真が静かに笑う気配がした。
窓の外。
東京の夜景。
騒がしい世界。
でも蒼の頭に浮かんでいたのは、夜しかない静かな街だった。
雪の公園。
夕焼けの学校。
雨の屋上。
あの世界で過ごした三年間。
悠真がぽつりと言う。
『……なんか変な感じだな』
「何が」
『前まで世界に二人しかいなかったのに』
窓の向こうで、車のクラクションが鳴る。
『今は人だらけで、でもお前はいない』
蒼は少し黙る。
それから静かに言った。
「すぐ行く」
その言葉は、不思議なくらい自然だった。
世界が戻っても。
場所が離れても。
三年間の時間は、簡単には消えなかった。