「んー、美味しい!本場大阪のお好み焼き、めっちゃ美味しいわ」
翌日。
瞳子は満面の笑みで、念願のお好み焼きを頬張る。
「それは良かった。けど、その妙な関西弁はやめろ」
「ええー?なんでやねん。お好み焼きはやっぱり関西弁やん」
「瞳子、周りの目が痛い」
モデルのようにスタイルの良い美人が、変な関西弁でお好み焼きを堪能している。
それがシュールなのか、皆は不思議そうに瞳子に注目していた。
(夕べはあんなに妖艶で色っぽい女性だったのに…。今日はまるで子どもだな)
そう思いながら、大河は苦笑いする。
(いや、でもまた夜になれば、夕べみたいに…)
そこまで考えた時、またもや息子が起きそうになり、慌てて邪念を振り払った。
「あー、美味しかった!」
お好み焼きに満足すると、再び電車で神戸に戻り、動物園を訪れた。
「パンダだ!大河さん、パンダがいる!すごいやん、神戸!ニーハオ、パンダちゃん!」
興奮すると言葉が変になる癖は治らないらしい。
瞳子は大河の腕をバシバシ叩いて、はしゃいだ声を上げる。
ゾウやキリン、ペンギンやホッキョクグマ、コアラにレッサーパンダ…
瞳子は何を見ても、子どものように嬉しそうに喜ぶ。
お土産にパンダのぬいぐるみを買って渡すと、ありがとう!と可愛い笑顔をみせ、大河は危うくその場で熱いキスをしてしまいそうになった。
「神戸って、ケーキやパンも美味しいですね。もう絶対3キロは太った気がする」
困ったように笑いながら、ダイエットは明日から!と、瞳子は何でもパクパク食べる。
夜は明石焼きの店に行ってみた。
「わあ、これも美味しい!正しくは、玉子焼きって言うんですね。お出汁で食べるのがいいですね」
「ああ。こういうローカルな店って、地元の人に愛されてて本当に旨いよな」
「ええ。神戸牛も美味しいけど、これも負けてません」
2日目の神戸も大いに満喫し、仲良く手を繋いでホテルに戻る。
「大河さん、今夜も一緒に寝ていい?」
「聞くまでもない。朝まで離さないからな」
言葉通り、大河はひとときも自分の腕から瞳子を離さなかった。
翌日。
二人は名残惜しさに後ろ髪を引かれつつ、帰路につく。
瞳子は離陸した飛行機の窓から、素敵な思い出をくれた神戸の街に、ありがとうと呟いた。
「おめでとう!洋平。幸せにな」
「おめでとうございます、洋平さん。素敵な奥様ですね。どうぞお幸せに」
花嫁と腕を組み、バージンロードを歩いて行く洋平に、大河と瞳子は祝福の言葉をかけた。
「ありがとう!大河、瞳子ちゃん」
タキシードに身を包み、いつにも増してキリッとした顔つきの洋平は、吾郎や透にも声をかけられ笑顔で応える。
アートプラネッツが海外からの招致で忙しくなるのを前に、洋平の結婚式が執り行われていた。
洋平が初めて本気で惚れたという花嫁は、5歳年上の知的で綺麗な女性。
チャペルの外で、皆の祝福を受けて微笑む新郎新婦に、瞳子はうっとりと見とれた。
「お似合いだなあ、お二人。奥様はクールビューティーで、洋平さんもかっこいいし。とっても幸せそうですね」
ああ、そうだな、と相槌を打ちながら、大河は瞳子の肩を抱く手を緩めずに、周囲に目を光らせる。
「大河さん?さっきから何をソワソワしてるんですか?」
「瞳子がさらわれそうで心配なんだ」
…は?と瞳子は眉根を寄せる。
「こんな白昼堂々と、誘拐ですか?」
「そうだ。みんなが瞳子を狙ってる」
「何を言ってるんですか?また刑事ごっこ?」
「違うっつーの!瞳子に言い寄ろうとしてる男共が大勢いるんだ。なにせ、今日の瞳子は格別に綺麗だからな。ワンピースだぞ?反則だ!」
「…はい?」
瞳子は呆れて言葉が出てこない。
確かに今日はいつものパンツスタイルではなく、結婚式のゲストとして、華やかなワンピースを着てきた。
だが、主役はなんと言っても花嫁だ。
自分のことなど、誰も見てはいないと瞳子は思っていた。
それに、左手にはエンゲージリングが光っているし、大河は常に自分の肩を抱き寄せている。
どこに誰かがつけ入る隙があるのだろうか。
「瞳子、今日は絶対に俺から離れるなよ」
「トイレに行きたくなったらどうすればいいですか?」
「我慢しろ」
「そんな無茶な!」
瞳子が抗議していると、後ろから「やれやれ…」と吾郎と透の声がした。
「大河、そんなに心配ならお前もさっさと結婚しろ」
「そうだよ。アリシアが俺に心変わりしても知らないぞ?」
今はまだ独身だもんねー、と瞳子に笑いかける透に、大河はムキーッと敵意を丸出しにする。
「瞳子はやらん!絶対にお前の嫁にはやらんからな!」
「大河、それ娘を持つ父親のセリフだよ」
透が呆れると、吾郎も頷く。
「確かに。お前、瞳子ちゃんのお父さんにそう言われたのか?」
大河はハッとしてから、しょんぼりとうつむく。
「言われてない。けど、言われたらどうしよう…」
「あー、まだ挨拶に行ってないのか。ま、覚悟しておくんだな」
「健闘を祈る!」
吾郎と透は大河の肩を叩いてから去っていった。
「大河さん?大丈夫?」
ガックリと肩を落としたままの大河の顔を、瞳子はそっと覗き込む。
「そうだよな。こんな可愛い娘を、どこの馬の骨とも分からない俺に嫁がせるなんて。やっぱりお父さんに反対されるかな」
自信なさげに呟く大河に、んー、と瞳子は言葉を選ぶ。
「もし反対されたら?大河さん、諦めるの?」
「まさか!何があっても瞳子と結婚する。お父さんに引っぱたかれても、どんなに反対されても、絶対に説得してみせる」
「うん!ありがとう、大河さん」
瞳子は顔を輝かせて幸せそうに微笑む。
可愛い…と思わず頬を緩める大河に、瞳子は笑顔で続ける。
「大河さんなら絶対に大丈夫。私が好きになった人だもん。うちの家族みんな、大河さんに感謝すると思います」
「瞳子…、ありがとう。必ず認めてもらうように頑張る」
「はい。私も大河さんのご家族に認めて頂けるように、頑張らなくちゃ!」
「心配するな。認めるも何も、瞳子以上の女性なんてこの世にいない」
「ぶっ!大河さんたら…。恥ずかしいから真顔でそんな変なこと言わないでください」
「どこが変なんだ?事実を述べたまでだ」
はいはい、と瞳子は軽く流して歩き出す。
「こら!俺から離れるなってば」
「もう…、私は3歳児じゃありません!」
「こんなに魅力的な3歳児がどこにいる?」
「だから!恥ずかしいこと言わないでってば!」
言い合いながら肩を寄せ合って歩く二人に、吾郎と透は両手を広げて苦笑いする。
「まったく…。仲がいいのか悪いのか」
「夫婦喧嘩は犬も食わないってやつだね」
「そうだな。尻尾フリフリの透ちゃんでもな」
「おい、俺は子犬じゃないってば」
吾郎をジロリと睨んでから、透はまた二人に目をやる。
「最強で最高のカップルだね」
「ああ、そうだな。よし!俺達も幸せ見つけようぜ、透」
「あ、俺、見つけようと思えばすぐ見つかるから」
「なにー?!お前、俺が慰めてやったのに、出し抜くのか?」
「そうだよー。頑張ってね、吾郎」
「くーっ、透!俺だって負けないからな!」
「はいはい」
ポカポカと暖かい陽気に、心地良いそよ風が吹く。
幸せそうな洋平夫婦と、賑やかに言い合う大河と瞳子、吾郎と透。
信頼出来る仲間達の輝く笑顔。
それぞれの未来を祝福するかのように、明るい陽射しが皆をキラキラと照らし続けていた。
(完)
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