テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第91話 〚交差しないはずの線〛(恒一)
恒一は、夜の街を歩いていた。
人混みの中でも、
誰とも目を合わせない。
(……おかしい)
胸の奥に、
微かな違和感が残っている。
今までなら――
澪の未来は、はっきりしていた。
自分が近づく。
逃げられる。
それでも、追える。
その線は、
一本に繋がっていたはずだった。
(なのに)
頭に浮かぶ未来が、
噛み合わない。
澪が立ち止まる場面。
澪が誰かの手を取る場面。
澪が、自分を見ない場面。
どれも、
「決定的」じゃない。
(……見えない)
恒一は、足を止める。
今まで、
自分は“読めていた”。
澪が怯える瞬間も、
周囲が動くタイミングも。
それなのに――
(交差しない)
自分の行動と、
澪の未来が、
重ならない。
まるで、
別の線を進んでいるみたいだった。
「……は」
小さく、乾いた笑い。
(俺が、ズレた?)
違う。
(澪が、変わった)
その考えが、
胸の奥にすっと落ちる。
以前の澪は、
流されていた。
静かで、
選ばず、
守られる側だった。
(でも、今は)
恒一は、
無意識に拳を握る。
(選んでる)
澪は、
未来を待っていない。
未来に、
手を伸ばしている。
「……面白くない」
ぽつりと呟く。
自分が見てきた“線”から、
澪が外れていく。
それは、
拒絶よりも、
ずっと苛立たしい。
(交差しないなら)
恒一の目が、
細くなる。
(無理やり、重ねる)
澪の選択を、
上書きする。
澪の線を、
自分の線に引き戻す。
――そうすればいい。
でも。
その瞬間、
胸の奥に、
小さな不安が走った。
(……できるか?)
初めて浮かぶ、
失敗の可能性。
恒一は、
それをすぐに振り払う。
「できる」
自分に言い聞かせるように。
「……まだ」
交差しないだけで、
終わったわけじゃない。
夜風が吹く。
恒一の影は、
街灯の下で、
わずかに歪んでいた。
――交差しないはずの線は、
このまま離れていくのか。
それとも。
誰かが、無理に結び直そうとするのか。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!