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誰も知らない、高嶺の花の裏側

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誰も知らない、高嶺の花の裏側

92 - 第92話 〚守る輪が完成する時〛(全体)

2026年02月09日

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第92話 〚守る輪が完成する時〛(全体)


夏の午後。

校舎には、いつもと変わらない音が流れていた。


蝉の声。

廊下を歩く足音。

遠くで笑う声。


――けれど、

水面下では、確かに何かが動いていた。



澪は、教室の窓際に座っていた。


胸の奥が、

きゅっと締めつけられるように痛む。


(……来ない)


予知は、流れなかった。


でも、それは「安心」じゃない。


(皆が、動いてる)


えま、しおり、みさと。

三人は、休み時間になると自然に澪の近くに集まる。


特別な言葉はない。

ただ、離れない。


それだけで、

澪の心臓の痛みは、少し和らいだ。



廊下の向こう。


海翔は、玲央と並んで歩いていた。


「……最近さ」

玲央が低く言う。

「“偶然”が減った」


海翔は、すぐ意味を理解した。


恒一が、

澪の近くに現れない。


「担任が動いた」

海翔が答える。


視線を、職員室の方向に向ける。


「校長も、もう知ってる」


玲央は小さく息を吐いた。

「やっと、だな」


海翔は、拳を握る。


(俺一人じゃなかった)


守る役目は、

自分だけのものじゃない。



放課後。


担任は、校長室を出たところで立ち止まる。


「……生徒は、守る」

それだけを、静かに呟いた。


もう、様子見は終わり。


大人たちの線が、

はっきりと一本に繋がった瞬間だった。



校門の前。


澪は、皆と並んで歩いていた。


右に海翔。

後ろにえまとしおり。

少し前にみさと。

少し離れて玲央。


不思議なくらい、

隙間がない。


(……これが)


澪は、胸に手を当てる。


痛みは、ある。


でもそれは、

恐怖じゃなく――


(守られてる、痛み)


一人じゃないことを、

体が理解している感覚。



その頃。


恒一は、

校舎の影からその光景を見ていた。


澪を中心に、

人の配置が、完璧に組まれている。


(……輪)


気づいてしまった。


近づけない理由を。


一歩踏み出せば、

必ず誰かの視線に触れる。


声をかければ、

必ず誰かが割って入る。


(完成、したのか)


初めて、

確かな焦りが胸を刺す。


恒一は、ゆっくりと後ずさる。


(まだだ)


まだ、終わっていない。


でも――


「……厄介だな」


そう呟いた声は、

今までより、ずっと小さかった。



夕焼けの中。


澪は、ふと振り返る。


誰も、いない。


でも、

“見られている気配”だけが、

少し遠くへ離れていく。


胸の奥の痛みが、

すっと引いた。


(これが……未来を変えた、結果)


予知じゃない。

想像でもない。


“選んで繋いだ”今。


守る輪は、

確かに完成していた。


――でも。


それは同時に、

誰かを追い詰める形でもあった。


静かな均衡は、

いつまで保たれるのか。


物語は、

100話へ向けて、

次の段階へ進み始めていた。


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