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第3話:静かな歩み寄り
あの雨の夜から数週間が過ぎた。
蓮の申し出を受け入れ、翔太のマンションには週末になると蓮が訪れるようになっていた。
「ただいま、翔太」
「……お前、ノックもしないで入ってくるなよ」
玄関で靴を揃える蓮に、翔太はエプロン姿でツンとした声をかける。
しかし、その表情にはどこか柔らかさがあった。
外面は相変わらず不愛想でピリピリとした雰囲気を纏っている蓮だが、この部屋に入ると一転して穏やかで優しい顔を見せる。
「パ、あー!」
リビングからよちよち歩きで現れた涼太が、蓮の姿を見つけると顔を輝かせた。
まだ言葉はおぼつかないが、この大きくて優しい大人が大好きなのだと全身で表現している。
「涼太、ただいま」
蓮は長身をかがめ、視線を涼太と同じ高さに合わせて優しく微笑んだ。
抱き上げると、2歳の小さな身体は蓮の広い胸の中にすっぽりと収まる。
「蓮、あんまり甘やかすなよ。それと……手、洗え」
「分かってる。翔太、今日も綺麗だね」
「っ、余計なこと言ってないで早く行け!」
顔を真っ赤にしてキッチンへ戻る翔太の背中を、蓮は愛おしそうに見つめた。
普段は高校で数学を教え、ツンツンとした態度で生徒からも一目置かれている翔太だが、家ではスキンケアや美容に余念がない。
そんな翔太の変わらない可愛らしさに、蓮の心は静かに満たされていく。
夕食後、リビングで涼太が積木で遊んでいる横で、蓮と翔太は温かいお茶を飲みながら並んで座っていた。
「財閥の仕事、忙しいんじゃないのか? 週末ごとにこんなところに来て」
「お前と涼太と過ごす時間より優先すべき仕事なんてない」
即答する蓮に、翔太は言葉を詰まらせ、お茶の湯気をじっと見つめた。
「俺さ……3年間、ずっと一人で平気だと思ってた。涼太がいてくれたし、仕事もあったし。でも……」
翔太の指先が少し震える。
「お前が隣にいて、涼太を抱きしめてくれるのを見ると……本当は、寂しかったんだなって思う」
蓮は静かに手を伸ばし、翔太の華奢な手を包み込んだ。
大きな掌の温もりが、翔太の頑なだった心を少しずつ溶かしていく。
「もう一人で背負わなくていい。俺が二人を守るから」
過剰な執着や押し付けではない、深く静かな愛情が、二人の間に温かく満ちていた。
コメント
1件
第3話、じんわり沁みました……。蓮の「優先すべき仕事なんてない」の一言が、もう全部物語ってるなって。ああいう飾らない誠実さって、読み手にもちゃんと届くんですよね。エプロン姿でツンとする翔太の可愛さと、蓮が涼太に視線を合わせて微笑む優しさの対比が絶妙で、思わず頬が緩みました。3年間一人で頑張ってきた翔太が「寂しかった」と認められるまでになった距離感、そのゆっくりした歩み寄りを丁寧に書いてくださって、とても好きです。続きも静かに楽しみにしていますね🌷
junp_
12,904
あべさく正義♡
27
コアラと木の実
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