テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
m ( 低浮
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
デパートのメンズフロア。玲王は迷うことなく、一着で潔の数ヶ月分の小遣いが飛びそうなハイブランドのショップへと足を踏み入れた。
「おい、玲王……ここ、高くないか? スポーツシューズ買いに来たんじゃ……」
「いいから黙ってろ。……店員、これとこれ。あとあっちの棚のセットアップ、こいつのサイズで用意しろ」
玲王は流れるような動作で、次々と潔に似合いそうな服を指差していく。潔の清潔感のある顔立ちを引き立てる、上品なライトグレーのニットや、シルエットの綺麗なデニム。
「え、ちょ、玲王!? これ、俺の?」
「試着室入れ。……あ、それからそのインナーも追加で」
試着室から出てくるたびに、潔は「……どうだ? 似合ってるか?」と少し照れくさそうに首を傾げる。その姿を見るたび、玲王の心臓は「ドクン」と嫌な(いいえ、心地よい)音を立てるのだ。
「……ふん、マシになったな。それも買え」
「いや、自分で払うから! いくらだ?」
「お前が払えるわけねーだろ。……カードで」
玲王はブラックカードを平然と差し出した。
自分でも分かっている。これは異常だ。凪を奪った「敵」であり、あんなに憎んでいたはずの男に、なぜ自分はせっせと貢いでいるのか。
(……なんで俺、こいつに金使ってんだ……?)
普通なら、嫌いな相手には1円だって惜しいはず。
だが、玲王にとってはこの程度の金額、資産の桁からすれば誤差のようなものだ。呼吸をするのと同じくらい、金を使うことに痛みはない。
むしろ、「俺が買い与えた服を、潔が着ている」という事実に、得体の知れない高揚感を覚えていた。
「玲王、流石に悪いって! こんなにたくさん……」
「うるせー。お前がボロボロの格好で俺の隣歩くのが許せねーだけだ。……ほら、次はあっちの時計見るぞ」
「ええっ! 時計はやめろよ!」
全力で拒否する潔の腕を引きながら、玲王は内心で毒づく。
(……ムカつく。なんでこんなに人の良さそうな顔してんだよ。……こんなの、嫌いになれるわけねーだろ……)
イライラする。
潔の笑顔を見るたびに、胸の奥の「恨み」が、ドロドロに甘い「執着」へと溶けていくのが分かってしまう。
玲王の「嫌い」という言葉は、もはや「大好き」の裏返しでしかないことに、本人と潔以外は全員気づいている状態である。