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ブレーキを強く踏んだため、体が前のめりになる。シートベルトが支えているため、それほど深く倒れ込むことは無かった。
賢一はハザードをつけ車を寄せる。
「誰がそれを」
「森川彩香が言っていたことは本当だったのね」
「彩香さんが何だって?」
賢一があの人の名前を呼ぶことに胸がキリキリと痛む。
「前に、森川彩香という人がビルの前で待ち伏せしていたの、運転手付きのクラウンに乗って高級ホテルのラウンジで賢一と別れなさいと命令された」
「くそっ」
賢一はハンドルを右の拳で叩いた。
「来週の土曜日、時間をくれないか。いや、他の約束があったとしても時間を作ってほしい。そこで、きちんと説明をする。」
真っ直ぐに私の目を見つめる。
賢一の瞳には私が映っている。きっと、私の瞳には賢一が映っているんだろう。
「俺を信じてほしい。1週間、きっと俺は1秒も惜しいほど忙しくなって会うことはできなくなるけど俺の言葉だけを信じて欲しい」
「それなら、もう一つ私に隠していることがあるでしょ?それも1週間後?」
「いや、それは今言うよ。俺はISLAND社長の長男だ。来月、俺は副社長に就任する。騙すつもりは無かった、ただ素性が知れると周りから変な忖度や擦り寄りが起こることを懸念して、俺が何者なのか知られないようにしてきた。知っているのは上層部だけだ」
「それからもう一つ、2ヶ月のお試し期間は、お試しで終わらせるつもりもない」
「わかった、1週間後。賢一を信じる」
「部屋まで送っていく」
賢一はハザードを解除して車を発進させた。
車内では何を話せばいいのかわからなくなり二人とも無言だった。
マンションに着くと、部屋まで送るという賢一の提案を断った。
「じゃあ、これ」
そう言って紅芋タルトの入った紙袋を手渡された。
「あと、1週間後にはきちんと話をするから、その、自暴自棄になるなよ」