夕食の時間になり、宿舎の裏手にあるバーベキュー場からは香ばしい肉の匂いと煙が立ち上っていた。
「さあ、みんな! 練習の疲れを肉で吹き飛ばすわよ!」
成瀬先輩はそう宣言するなり、迷うことなく小谷先生が座るベンチの隣をガッチリと確保した。
「先生、私がどんどん焼きますから。……紗南ちゃん、約束通りお願いね!」
先輩からの鋭い視線を受け、私は少し離れた網の前で立ち尽くす。
……正直、成瀬先輩が先生に集中できるよう「あの二人」を遠ざけておけと言われても、私にそんな力があるはずもなく。
「紗南、こっち。ここ、火力がちょうどいいから。……ほら、お前の好きなタンだぞ」
遥がトングを片手に、慣れた手つきで肉を焼きながら私を呼び寄せる。
「あ、ありがとう遥。……でも自分で焼くから大丈夫だよ」
「いいから食え。お前、さっきから動いてばっかりで何にも食べてないだろ」
遥が不器用にお皿に肉を乗せてくれる横から、スッと別のトングが伸びてきた。
「紗南ちゃん、野菜も食べないとダメだよ。……はい、これは僕がじっくり焼いたピーマンとカボチャ。一番美味しいタイミングだよ」
凌先輩が、まるで高級店のシェフのような優雅さで、彩り豊かな野菜を私のお皿に添える。
「あ、凌先輩まで……ありがとうございます」
「……おい兄貴、邪魔すんなよ。俺が先に焼いてたんだぞ」
「邪魔なんてしてないよ、遥。バランスを考えてあげてるだけさ」
網の上でカチカチとトングがぶつかり合い、火花が散る。
その光景を横目で見た小谷先生が、成瀬先輩が差し出したお肉を口に運びながら、低く呟いた。
「……おい、お前ら二人は肉より練習にその体力を回せ」
先生の一喝で、一瞬だけ静まり返る網の上。
けれど、遥と凌先輩は顔を見合わせると、同時に私の方を向き、競うように新しい肉を網に乗せ始めた。






