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俺とグランドマスターは会議室の扉を開けて部屋の中へと入っていく。
部屋の中からは少しばかり談笑の声が聞こえている。
「おっ、ようやくご本人の登場だな!」
「遅いですよ…」
「……」
そこには三人の人物がそれぞれ大きな長方形の机を囲んでおり、それぞれ約1mほどの間隔を空けてそれぞれ座っていた。
一人は灰色のローブを着ている魔法使いのようなおじいさん。
一人は筋骨隆々で身長が2m以上あろうかという大柄の男。
一人は尖った耳を持ち金色で長髪の綺麗なエルフの女性。
そんな彼らからはグランドマスターと同じく側にいるだけで感じることが出来る圧倒的な力を部屋に入った瞬間に感じることが出来た。ステータスも文字通り人外レベルの化け物数値の持ち主たちがこのように一堂に会しているのは正直圧巻である。
「いやいや、王都まで急に呼び出してしまってすまないね」
そんな彼らに笑顔で軽く挨拶を交わしながらグランドマスターは一番奥の席に向かった。一方の俺はというと空いている席にこっそりと座ろうと辺りを見渡して、エルフの女性の隣の席が空いていたのでそこにちょこんと静かに座った。
すると俺が座った直後、グランドマスター以外の三人の視線がこちらへと集まってきた。彼らは品定めするかのように俺のことを見つめると一瞬で視線を外した。
もしかしてお眼鏡に合わなかったのだろうか…
全員座ったことを確認するとグランドマスターは立ち上がって話し始めた。その様子はいつもの優しげな雰囲気とは違ってキリッとした真面目モードだった。
「ごほんっ…えー、まずは急な召集にも関わらず集まってくれた君たちに感謝したい。本当にありがとう。君たちSランク冒険者の力をどうしても借りないといけない状況が発生したのだ」
「…とりあえず話は聞くが、些細なことであれば帰らせてもらうぞ。大切な大切な魔法研究を放ってまで来たんじゃからな」
灰色ローブの老人が小さくそのように言い放つ。どうやら魔法研究者のようだが、前世でも居そうな頑固な研究者って感じだな。
「まあまあ、とりあえず些細な話ではないということだけは保証しよう。では状況を詳しく説明していこうと思う。これは他の冒険者たちには話していないごく一部のものだけに知らせている話だということを念頭に置いておいてくれ」
そういうとグランドマスターは俺が北方山脈で体験したことを説明、そしてローガンスの恐るべき研究や今後起きるかもしれない非常事態について他のSランク冒険者たちに話していった。
最初はつまらなさそうに聞いていた三人だったが、次第に表情が曇っていき非常に難しそうな顔つきへと変わっていった。
「…というわけでぜひ君たちSランク冒険者には来たる戦いで最高戦力としてその力を奮って欲しい」
そう最後に告げてグランドマスターの話が終わる。
その後、しばらくの間会議室は静寂に包まれていた。
「…にわかには信じられませんね」
「ああ、超越種を作れるだなんて冗談にしてもセンスがないぜ」
「馬鹿馬鹿しい、そんな世迷言でわしたちは呼び出されたのか…」
静寂を破り飛び出した言葉はどれもグランドマスターの話を真実ではないだろうと切り捨てるものであった。
まあ、このような反応になるのは火を見るより明らかではあった。特にSランクの猛者ともなれば超越種という存在がどれほどのものかを理解出来るが故にこのような反応になってしまっても無理はないと思う。
「グランドマスター、あなたがそのような嘘をつくような人物ではないとは分かっていますが今回のお話はちょっと…」
エルフの女性が誤解のないようにとグランドマスターを庇うような言葉を並べる。話し方からも分かる彼女の優しさが伝わってくる。
「証拠はないのか、証拠」
「証拠となるものは全てそのローガンスというマモン教を名乗る者によって回収されてしまったそうだ」
「なら余計に信じられんな」
魔法使い風のおじいさんはグランドマスターにも物怖じせずに強い語気で話している。どうやら見た目の雰囲気そのままで頑固親父という感じの人のようだ。
「俺もグランドマスターがそんな嘘をつく人だなんて思わないけどよ…流石にその話は馬鹿な俺でも簡単には信じられないな」
そう大きな声で格闘家風の大柄マッチョな男性は答える。
自分で馬鹿というのはどうかと思うが周りの反応を見るに自他ともに認めているのだろう。
「ああ、もちろん簡単に信じてもらえないことは分かっている。だから君たちにも信じてもらえるよう証人に来てもらっている」
「「「証人…?」」」
三人は口をそろえて同じ言葉を呟くとグランドマスターの目線の先へと目を向けた。
するとグランドマスターが会議室の扉へ向かって呼びかける。
その数秒後、会議室の扉がゆっくりと開きとある人物が入ってくる。
「失礼します!」
そこには緊張した面持ちのセレナの姿があった。
俺は事前にこの展開は聞いていたので驚くことはなかった。
グランドマスターはSランク冒険者たちが今回の話を言葉だけで信じることは可能性として低いと見ていた。そのために彼女の力が何よりも重要であるとセレナにお願いをしていたのだ。
どうやらSランク冒険者たちもセレナの魔眼のことは知っているみたいでグランドマスター曰く、物的証拠がない今では彼女の言葉が一番の信用に足るものとなるとのことだ。
「Sランク冒険者の皆さま、お初にお目にかかります。私、ロードウィズダム公爵家第二令嬢セレナ・ロードウィズダムと申します。以後お見知りおきを」
「「「セレナ嬢!?」」」
セレナが礼儀作法が抜群に決まった挨拶を終えると座っていた三人は驚きのあまり椅子から立ち上がっていた。グランドマスターは先からずっと立っていたので会議室では俺だけが座っている状態になり、何だか気まずいのでそろ~っと静かに俺も立ち上がった。
ここでセレナが出てきたことの意味を三人は分かったようだ。
すると彼らはすっと視線をグランドマスターのもとへと戻した。
「それで、真性の魔眼を持っているセレナ嬢の言葉でわしらに信じさせようと?」
「信じさせようなんてとんでもない、その逆だよ。セレナ嬢の魔眼の力があれば君たちが私の話が嘘か本当か分かるだろ?特に君は彼女の性格と魔眼の能力について良く知っているのだからね」
グランドマスターはニヤリと笑って魔法使い風のおじいさんを見る。
すると少しため息をついてそのおじいさんは席に座り直す。
「ではセレナ嬢に聞きたい。グランドマスターが話したマモン教と超越種の話は真実なのかお聞かせいただきたい」
三人を代表してエルフの女性がセレナに尋ねる。
するとセレナは魔眼の力を発動させてグランドマスター及び会議室にいる全ての人を見渡す。
「…残念ながらグランドマスターは嘘はついておりません。それに私は話にあった北方山脈で実際に超越種や教団の者と対峙した人物にも直接確認をしましたが全ての報告に嘘偽りはありませんでした」
そう言い終えるとチラッとセレナは俺の方へと視線をやった。すると他の三人のSランク冒険者の視線も一気にこちらへと向き、突如として注目の的になってしまった。
「…先ほどから気になってはいたが、お主が話に合った新しいSランク冒険者か?」
「あっ、はい。初めまして、新しくSランクになりました冒険者のユウトと申します」
俺はここぞとばかりに皆さんに向けて挨拶をする。もっと早めにするべきだったろうが、出来るタイミングなんて今の今まで一度もなかったのだから仕方がないと心の中で言い訳を並べる。
「お主は本当に北の山脈でドラゴンの超越種と出会い、そしてマモン教を名乗る男がその死体を回収していったのだな?神に誓って真実だと言えるか?」
神…ここでいう神はもちろん女神イリス様だ。
俺はイリス様には返しても返しきれない御恩がある。
だからこそ嘘をつくなんて出来るはずがない。
「もちろんです!この話が全て真実であると神様に誓いましょう!」
俺は力強い言葉で会議室中に響き渡るように宣言する。すると一番疑っていたおじいさんはすでに座っているが、他二人のSランク冒険者たちもゆっくりと席に座って三人とも悩み始めた。
そして再び会議室には静寂が訪れる。
今度は先ほどまでよりも長い長い静寂である。
そして数十秒後、この沈黙は最初に破ったのはエルフの女性だった。
「…少し聞きたいことがあります」