テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
雪月❄️
268
#あべさく
めかぶぷりん
7,892
楪羽*yuzuriha*
8,455
急に視界が白で染められ、気付いた時には、宮舘が寝ていたホテルの部屋にいた。ハッとして部屋の中を見回すと、皆が驚いたようにこちらを見ている。寝ていた筈の宮舘も起きて、壁際に立つ目黒を見ていた。
🩷「蓮、阿部ちゃんは!?」
🖤「……阿部ちゃんは、残った……俺たちを、自分の飽和暴走に巻き込まないようにって……」
💙「あいつ、また!」
🖤「でも違う。前とは、違うから……あいことば」
🤍「あいことばって、歌?」
🖤「そう。阿部ちゃんと、夜に海まで散歩に行って、そこで阿部ちゃん、ハミングしてた。その曲が『あいことば』だったんだ。さっきも、俺に言ったんだよ。ちゃんと帰るから、あいことばだよって」
思い浮かぶ歌詞に、もしかしたら阿部の想いが込められているのかもしれない。大丈夫だよと、言っているのかもしれない。
🖤「……歌、音……もしかしたら」
不意に、目黒はベッド脇のサイドボードに置かれているマドラーを手に取った。そこに垂れ下がっている小さな陽ヶ瀬石を見つめる。そして、枕から続く壁を見上げた。
無理かもしれない。それでも、やらない理由はない。
すぅっと息を吸い込んで、目黒は歌を紡いだ。流れるメロディに、皆が、壁に向かって手を差し伸べる目黒を見る。
🤍「……タペストリー……」
ラウールの呟きに、皆が顔を見合わせて頷くと、目黒を中心にして、壁の方を向く。
目黒の声が途切れたところで、渡辺が引き継ぐように歌い出す。驚いたように振り返る目黒。渡辺は、歌いながらふっと笑みを浮かべた。
みんな、意図を察してくれたのだろう。だから目黒も微笑み、渡辺から再び歌を引き継いだ。
口ずさむメロディに合わせて、肩を二回、トントンと叩く。愛しい者を見るような目で見つめながら。
向井が、切ない表情で歌いながら、涙を拭う動作をする。
そして阿部のパートは、誰も歌わなかった。ただ、遠く離れた場所にいる阿部を見つめる。ここにいるのだと、そう言うように。
阿部といつも重なる宮舘の歌声が、静かに響き渡る。
岩本は突き出した手を握り締める。
何かにそっと触れるような手つきの佐久間。重なるように深澤が歌い、自分の頬を優しく撫でた。
ラウールは、阿部がいるであろう場所をただ、見据えていた。
一人ずつ、歌い繋いでいく。途切れぬように、織り重なるように、届け、届けと、皆が心を込める。その先にいるのは、阿部。
🖤―――孤独終わらせに 行こう……―――
目黒の姿が消えると、阿部よりも高い位置にアルカナムが出現する。本はすでに開かれており、アルカナム全体が翠色の光を発している。
そして、人形は動いていないのに、あちこちで爆発が起き、雪が舞い始める。
「亮平お兄ちゃん」
💚「夏音ちゃん。ここは危険だから、夏音ちゃんも戻って」
すると夏音は、大きく首を横に振った。
「できないの。誘音、使えない。涼太お兄ちゃんの陽ヶ瀬石の音は聞こえる。でも、ボクが持ってる陽ヶ瀬石の音が鳴らない。二つの音が重ならないと、道ができないの」
💚「……わかった。俺の作った道も、アルカナムの出現で消えた。だから先ずは、アルカナムをどうにかしないと」
空中に浮いているアルカナムを見る。
以前の飽和暴走の時に使った、遡行と回帰は使えない。時間を戻す遡行は、使えばダフネの石まで戻ってしまう。そうなれば、電脳を使えない阿部一人では攻略しきれない。以前の状態に戻る回帰も同じこと。遡行も回帰も、時間停止と違って範囲を指定することはできず、世界そのものに干渉してしまう。
どうしたらいいのかと思考を巡らせていると。
〔お困りのようですね、夏音〕
どこからか聞こえてきた少女の声。耳に心地よく響く、上品な声だった。柔らかく穏やかな声音でありながら、凛とした芯がある。
屋敷の方から歩いて来るのは、一体の人形。
淡い金色の長い髪に、小さなパールを散りばめた人形だった。蜂蜜色の大きな瞳を細め、にこやかに笑っている。アイボリーと淡いピンクのドレスはレースとフリルで飾られ、まるで小さなお姫様のよう。その胸元には、小さな鍵のペンダントが下がっていた。
「クイーン!」
優雅な佇まいをした、クイーンと呼ばれた人形へと近づく。
「どうしたの、クイーンがあのお部屋を出るなんて」
〔必要になるかと思いまして。わたくしの力が〕
今も尚、夢幻ノ杜のあちこちでアルカナムに蓄積された異能が発動している。
「クイーン……あ、そっか。それならいける!」
そう言ってクイーンを見て頷き、それから夏音は阿部を見上げた。
「亮平お兄ちゃんがホントに帰りたいなら、飽和暴走を止めたいなら、ボクが、お兄ちゃんの異能を封印してあげる」
💚「……封印……?」
「うん。封印したら、もう異能が使えなくなる。だから、飽和暴走も治まると思う。そしたら、お兄ちゃんは助かるでしょ?」
💚「……封印、夏音ちゃんが使わなくていいの?」
すると、夏音は小さく首を横に振った。
「ボクはもう、異能は使わない。夢幻ノ杜は好きだけど、誰かから異能を奪うなんて嫌だから……ボク、亮平お兄ちゃんに生きててほしいの。お兄ちゃん達はボクの映し鏡をちゃんと見て、知って、それでもボクのお友達のこと、否定しなかった。だからボクは、亮平お兄ちゃんのために使いたい」
遠くで爆発の音が聞こえる。
炎も上がっている。空は壊れ、家が歪む。それでも、二人の視線はお互いに向けられたまま動かない。
その時だった。どこからか響いてくる歌声が耳に届いたのは。
それは、阿部のよく知る声。
💚「……めめ……?」
けれどそれだけではなかった。代わる代わる、SnowManみんなの歌声が聞こえてくる。この歌は、タペストリーだ。
阿部のパートは誰も歌わない。それが、何故だか嬉しかった。
💚「みんな……」
「他のお兄ちゃん達がお迎えに来てるんだ。歌で、夢幻ノ杜と現実世界を繋いでくれてる。だから、ね。この子、クイーンの封印の力《CLOSE》を使わせて」
〔覚悟は決まりましたのね、夏音〕
「うん! お兄ちゃん達のおかげで、お友達の異能は止まった。だから、亮平お兄ちゃんを助けて」
〔わかりましたわ。亮平お兄様もよろしいですか?〕
問われ、阿部は目を閉じる。
異能が使えなくなるということに不安がないわけではない。それでも、今ここで、暴走を止める術はない。使われ続ける異能、壊れ続ける夢幻ノ杜。もう本当に、迷う時間すらないのだ。
だから、覚悟を決めなくてはならない。
💚「うん。俺は帰らないと。約束したから、ちゃんと帰るって」
〔その覚悟、確かに受け取りましたわ。では、亮平お兄様。あなた様の異能を封じます〕
クイーンの前にしゃがむと、クイーンは首にかかっている鍵を手に取った。そして、クイーンがキラキラとした光に包まれると浮き上がり、阿部の心臓の辺りに鍵で触れる。
🖤―――孤独終わらせに 行こう……―――
目黒の歌声に重なるように、ぶわっと鍵から金色の光が溢れ出す。そしてそれは次第に収縮していくと、阿部の胸の前で弾けて消え、クイーンは鍵を回した。カチリ、と鍵のかかった音が聞こえると、今度はクイーンの体が金色の光に包まれていく。
💚「え……?」
「クイーンの異能は、一回しか使えないの。でもほら、もう、治まったよ」
あれだけ好き勝手に発動していた異能は消え、阿部の髪の色も元に戻っている。そして、いつの間にかアルカナムもなくなっていた。
「さ、亮平お兄ちゃん。一緒に行こう。ボクの誘音で、帰れると思う」
💚「でもさっきは」
「この歌があれば、大丈夫。歌が重なれば道になる。だから亮平お兄ちゃんも、歌で応えて」
渡辺と深澤の声が重なった。ああ、ここだ。
💚―――自分が消えてしまわぬ様に――――
自分のパートを歌いきる。そうだ。消えるわけにはいかない。帰るべき場所は、そこに確かにあるから。
すると、キラキラと夏音の体が輝き始めた。
「この歌、陽ヶ瀬石から流してるんだ。だからもう一度、歌が繋がればいける。亮平お兄ちゃん、こっちだよ!」
夏音に手を引かれ、走っていく。その横を、ぴょんぴょんと長い距離を飛ぶように移動するグローリーとソフィラ。
みんなの歌を聴きながら、夏音と繋いだ手を、解けないようにぎゅっと握る。もうすぐだ。もうすぐ、帰れる。
走って行った先にあるのは、赤い屋根のお屋敷。中に入り、二階のとある部屋に向かう。そこは、一台の天蓋付きのベッドが置かれただけの部屋で、そのベッドの上には一つのペンダントが置かれている。
それは、陽ヶ瀬石のペンダントだった。
「これが、今、涼太お兄ちゃんの陽ヶ瀬石と繋がってるの。声を導にして、ボクが誘音を使う。今、亮平お兄ちゃんが歌って応えてくれたら道になる」
みんなが導いてくれている。帰りたい。だからその想いを歌で紡ぐ。
俺に、道を示して。
🤍―――愛し想い 導いて―――
💚「今、どこへいこう……」
夏音の体を取り巻いているキラキラとした輝きが陽ヶ瀬石に移り、そして、その光が一本の道を作り出す。
視界が眩い光に包まれて、阿部は目を閉じた。
タペストリーを歌いきるかきらないかのところで、部屋中が眩い光に包まれた。
目を開けていられないほどの輝きに目を瞑り、数秒後に目を開ける。あの光を、みんなは知っている。こちらに帰ってくる時に見た光だ。
ハッとして、目黒が振り返る。
釣られるように皆も後方を見る。そして、目を見開いた。
💚「ただいま」
そこに立っていたのは、紛れもなく阿部だった。
コメント
5件
皆んなで歌っているところ、本当に感動でした🥺 💚の異能が封印されたのがこれから先心配ですが、帰って来れてよかった 💛💜🤍💙🧡💚🖤❤️🩷

凄〜い歌詞がちゃんと道標になって居る ちゃんと帰れた。