人生は、RPGみたいなものだと思う。
キャラクリから始まって、ゲームソフトの終了で幕引き。
たくさんのルート分岐があって、登場人物がいて、ストーリーに沿っていれば何をするのも自分次第。
だからこそ、人は悩んでしまうもので。
無意識に他人を恐れて、自分の正しさを肯定したくなる。
夢を語ったって、今じゃ笑われる世の中さ。
愛を伝えたって、まともに聞いてくれやしないさ。
貴方は、いつも歌うようにそう言うけれど。
そこには不安の混じった震えがこもっていて、決まって無理した顔をしていて。
俺が、貴方に言わなきゃいけないのに。
大丈夫だよ。
貴方のその声は、少なくとも貴方が気づけているから。
ノイズと耳鳴りが聞こえる。
たぶん夢なんだろうけど、ふと手が震えて、動くことができない。
『⋯〜〜〜〜。』
『⋯〜〜〜?』
『⋯〜〜〜〜〜w』
耳を塞ぐ。
こうやって、いつも逃げてばっかりだ。
無責任に、誰かに背中を押されるのを待っていて、自分で決めることなんてできない。
「誰の意見がどう」とかいいから、君なりに今打破だ。
そう言ってくれる貴方の武器は、愛情と矛先。
「僕の意見はどう?」とかいいから、君なりに形にして。
ほら、「どうか見せてよ」。
その期待に答えたいのに。
「ッは、はぁ、は⋯」
嫌な夢。
自分で思う以上に、貴方に嫌われている気がして。
釣り合わない関係だなんて考えてしまう。
例えるなら、勇者とそのへんの一般人みたいな。
貴方がかっこよくて、好きだと自覚するたびに、自分の中の黒い感情が膨れ上がる。
もういっそ、全てが全部、嘘になっちゃって。
何もかもなくなってしまえば楽なのに。
ガチャッ
「ぐちつぼっ?どした。」
「ん?いやなんでもないよ、平気。」
ぎこちない笑顔で、うわべを戯言で取り繕うぐちつぼ。
「平気」?わかりやすい嘘。バレてるよ。
「だめ、平気じゃないでしょ。」
「⋯なんで、」
「彼女が泣いてるのにほっとけるわけないでしょ。」
放心しているような顔のぐちつぼを抱きしめる。
手がかすかに震えているのが伝わってきて、嫌なことがあったときの癖が出ていた。
傷ついた貴方を癒してあげよう。
「⋯⋯うぁぁぁっ、ッぅぅ⋯」
俺に縋り付いて泣き崩れるぐちつぼ。
「大丈夫、俺は絶対ぐちつぼから離れないよ。何があっても放してやらない。」
「⋯俺、全てが全部、嫌になっちゃって、もう⋯消えたい。」
「ぐちつぼが消えたいなら俺も一緒に消える。」
全てが全部嫌になったなら、その錆ついた心を癒してあげよう。
消えたくなったなら、どこか遠くへ逃げてしまおう。
「俺ぐちつぼから拒絶されてたら死んじゃう。勝手に消えないで。」
「ん⋯俺も、らっだぁと一緒がいい。」
もう一度ぐちつぼを抱きしめて、そっと頭を撫でた。
好きだなぁ。
再度心の中で呟けば、ますます泥沼に沈んでいく感覚がして。
このままバッドエンドに進んだとしても、俺はそれを幸せと呼べる気がした。
敬意を払ったって、信用なんか無い世の中さ。
誰かを求めたって、助け舟などやってこないさ。
今日も自分に呪いをかける。
自己暗示という名の、やさしい呪い。
ずっと貴方と一緒に居たいから。
それでも、自分の奥深くでぐるぐると渦巻く感情がある。
大丈夫なの?このままでいいの?って、傷を吐き続けていて、死にそうになる。
だから、必死にそれを押し隠して、いつか希望が掴めるように願う。
少なくとも、絶望はやがて逝くはずだから。
貴方とともに在りたいから、貴方を護ってあげたいのに、自分すら守れない。
その弱さが、貴方をさらに傷つけてしまいそうで、ただただ怖かった。
俺は大して良い彼氏とかでもないし、容姿とか、性格とか、そんなものは人並み以下だと思う。
それでも、こんな自分を好きになってくれた貴方に最大限の幸せをお返ししたいから。
「誰の意見がどう」とかいいから、君なりに死守だ。
そう言い聞かせる俺の防具は、優しさと円盾。
それを貴方のために使って、そのまま一生を捧げてしまおう。
「私の容姿はどう?」とかいいから、着飾りの形じゃなく、ほら。
「どうか見せてよ」。
それが俺の幸せだから。
「⋯らっだぁ、」
「なに?」
問い返せば、少し思い詰めたような顔でぐちつぼが口を開いた。
「さっき消えたいって言ったけど、やっぱ嘘。⋯本当はどうでもいい。全てが全部、」
「⋯『いらなくなった』なんて言わないでね?」
「へ、」
思考を読まれてびっくりしたのか、俯いていた顔をこっちに向けた。
そんな仕草が思わず愛しく思えて、この好きで幸せを再認識する。
だから、傷ついた貴方を癒してあげよう。
「俺だって、全てが全部、『不安になった』って思ってるよ。」
錆ついた心を癒してあげよう。
「だから、ぐちつぼと一緒にいたい。何があっても、二人でいられたら俺は幸せ。」
「⋯俺も。」
短く答える貴方の心には、貴方が必死に押し隠そうとする刃があるのだろう。
その切っ先を素手で握って、その傷ごと貴方を愛そう。
傷ついて朽ち果てそうだ。
どれだけつらくても、どれだけ死にそうでも。
いつも貴方が傍にいてくれることが嬉しかった。
だから、今度は俺が貴方を護ろう。
錆びて盾が打ち破られても、この刃で。
愛情と矛先で。
大丈夫だよ、安心して。
そう言える貴方が綺麗で、愛おしくて。
好きでいられることが、何よりも幸せで。
君の強さは偉大なものだ。
その強さが、俺にくれるやさしさと同じ味をしていて。
優しく包み込めるほど、俺はやさしい刃ではないけれど。
このままで、互いをその傷ごと幸せで満たそう。
その君の矛先を愛と呼ぼう。
End。