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部屋の照明を落とすと、ホテルの窓の外に小さな街の灯りがちらちらと滲んで見えた。ベッドが二つ並ぶツインルーム。
静かすぎて、心臓の音がやけに響く。
(ふっかと同じ部屋……)
そのことを思うたび、胸の奥がくすぐったくなる。
嬉しい。
でも、それ以上に緊張して眠れない。
明日はまたライブ。
ファンの笑顔の前で、全力で踊らなきゃ。
楽しいはずなのに、なぜか不安がついてくる。
ステージの中で、自分だけが少し遅れてる気がして。
「……寝れないの?」
ふっかの声が、暗闇の中から聞こえた。
低くて優しい声。
隣のベッドから、シーツの音がかすかに鳴る。
「えっ、起こしちゃった?」
「いや。なんかさく、ずっと動いてたから」
「……うん。ちょっと考えごと」
「ライブのこと?」
「うん。明日もちゃんと踊れるかなーとか、変なとこで失敗しないかなーとか。考えすぎて眠れなくなっちゃった」
苦笑いする佐久間に、ふっかは少し間をおいて言った。
「さく」
「ん?」
「こっち来いよ。一緒に寝よ」
一瞬、時間が止まった気がした。
「えっ、な、なんで!?」
「なんでって……お前、昔からそうだったじゃん。寝れないとき、誰かの隣で寝たらすぐ寝ちゃうタイプだろ」
ふっかは、まるで当たり前のように笑って、 自分の隣の布団を軽く叩いた。
「ほら。こっち」
その優しさが、ずるい。
その何気ない気遣いが、好きになる理由になる。
「……ほんとに、いいの?」
「いいに決まってんだろ。俺が言ってんだから」
言葉に押されるように、佐久間は小さくうなずいて、
毛布を持ってふっかの隣に潜り込んだ。
距離が近い。
呼吸が聞こえる。
シャンプーの香りが、すぐそばで混ざる。
「な?あったかいだろ」
「……うん」
心臓の音が、うるさいくらい響く。
けど、それを気づかれたくなくて、
佐久間はゆっくり息を整えた。
「明日は大丈夫だよ、さく。お前、ちゃんとやってる。
俺がいっつも見てるから」
その声が、あまりにも優しくて、
涙が出そうになる。
「……ありがと、ふっか」
「いいって。今は寝ろ」
そっと頭をぽん、と撫でられる。
まぶたの奥がじんわり熱くなって、
そのまま佐久間は、ふっかのぬくもりに包まれながら目を閉じた。
――好きだって言いたい。
でも、それを言ったら、きっと全部が変わってしまう。
だから今は、この距離のままでいい。
となりで、同じ夢を見ていられたら、それでいい。