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かのデカルトは言った。
「我思う、故に我あり。」と。これは現在、学問をする上で最も基本の姿勢となっている。人間固有の理性を用いて、文理問わず、さまざまな事象を分析し、考察するのだ。
では、学問を幼い頃から義務付けられた現代人である我々は、いつも理性的であろうか。答えは否である。現代人は個別的な環境や思想を持ち、感情が渦巻く世を、多くの対立の中で生きているからだ。
これはそんな、理性と感情の物語。
窓を見ると、いつの間にか雨が降っている。何か不吉な事件が予想されるので、雨は嫌いだ。
「よう、どうした。浮かない顔して。」
「すみません、金田部長。お疲れ様です。」
「お疲れなのは栗原、お前だろ。」
そう言って部長は頭をファイルで軽く叩いた。
「何か嫌な事件が起こる気がしてしまいまして。」
栗原は窓の外に目をやる。
「おいおい、縁起でもないことやめてくれよ。仕事が増えるだろ。」
栗原たちの仕事は、警察だ。それも人を殺すかどうか判断する。職業名としては「警察隊処理判断部」と呼ばれている。犯罪を犯した人をその場で、殺すか否かを判断し、処理する。2040年の治安・社会安全法の成立によってできた部隊だ。そんな部隊が仕事を好きになれるはずがない。人を殺すのだ。
栗原は「そうですね。すみません。」
苦笑いしながらそう言った。
しかし、現実は残酷だ。
甲高いサイレンが鳴り響く。
「緊急要請!緊急要請!新宿の銀行にて強盗事件発生。犯人は凶器を手にしている模様。処理判断部は至急現場に向かって下さい。」
「行くぞ栗原!」
「はい!」
栗原が現場に着いた時には既に、予防線が張られており、一般人の避難は終えられていた。
「あの中に犯人が…。」
金田はそう嫌そうにつぶやいた。
銀行は硬いシャッターに覆われており、外部の侵入を許さない。
「すいませーん!遅れましたー。」
そううるさく叫びながらチャラそうな男がやってきた。髪は赤に染め、イヤリングもつけている。
「遅いぞ、有田。」
「いやー、すいません部長。昨日の夜までずっと飲んでまして…」
「まあいい。処分は後だ。今から状況を説明する。あの中に犯人がいる。その場にいた客を人質に取り、逃走用のヘリと金を要求している。今のところ被害者はいないらしい。」
「中々悪質ですね。」
栗原はため息をつきながら言った。
有田は何も気にしなさそうに、「じゃあ、サクッと殺しますか!」威勢よく口にし、腰に装着された銃に手をつける。
「おい待て有田!まずはジャッジグラスで測定だ。」金田部長は有田を制止した。ジャッジグラスとは眼鏡型の感情レベル測定機であり、犯人の怒りや悲しみのレベルを測定できる。ある一定の数値を超えるとブザーが鳴り、自動で警察省から殺人許可が出る。
「いいじゃないですか。どうせ撃つんでしょ?全く、上の人は許可とかそういうの好きですよねえ。」
そう言う有田を横目に栗原はジャッジグラスを起動する。おそらく犯人と思われる人影が建物に透けて見えた。すぐに感情レベルが識別、数値化された。
「感情種・sad、レベル5です!」
「現代にしては珍しいな。sadで事件を犯すなんて、そんな障害、幼少期時代に矯正されるはずだが…。それにレベル5とは。最高危険レベルだぞ。」部長は珍しそうに首を傾げる。
「じゃあ殺りますよー。」有田が銃口を建物に向ける。この銃は狙撃精度、威力を最大化した、警察省特製の対犯罪者用拳銃である。「処理」はすぐに終わった。トリガーに手をかけ、軽く引く。その作業だけで銃弾は建物を貫通し、見事に犯人の頭を撃ち抜いた。
「いやー楽でいいなあ。細かく狙わなくても、頭狙って勝手に風穴開けてくれんだもん。」
有田が射撃したのを確認した後、「もしもし、こちら金田です。無事、任務完了しました。」
と、金田は淡々に本部に報告した。
感情が理性より劣り、差別され、感情動機の事件は審判されずに問答無用で殺される。感情を無理解に排除するのは本当に理性的なのか。栗原はこの状況に対する自分の確かな違和感を意識せざるを得なかった。