テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ぷはーっ! 動いた後のチョコ味、最高!」
白石さんが満面の笑みを浮かべる。運動直後の上気した頬。汗ばんで張り付いた前髪。その無防備な表情に、僕は不覚にもドキリとした。スクワット中の凛とした表情とのギャップが、たまらない。
「白石さん、本当にかっこよかったよ。僕も見習わないとな」
「えっ?」
「いや、僕なんて体力ないし、お腹の肉も少し気になるし。今のままだと、白石さんを守るどころか、逆に守られそうで」
僕が自虐的に笑うと、彼女はきょとんとして、それから吹き出した。
「ふふっ、それも悪くないですけどね。……でも」
彼女は僕の腕にそっと触れた。ひんやりとした指先が、熱を持った筋肉に心地いい。
「一生懸命頑張ってくれたの、すごく素敵でしたよ。私、そういう陽一さんが好きです」
「白石さん……」
「だから、また一緒にトレーニングしましょうね。二人で強くなればいいんですよ~」
その言葉に、心がじんわりと温かくなる。
明日確定の激しい筋肉痛への恐怖さえ、今は少し誇らしく思えた。インドアな僕と、意外と体育会系な白石さん。
正反対だけど、だからこそ、こうして足りない部分を埋め合っていけるような気がした。
「うん。……次はもっと頑張るよ」
僕は残りのプロテインを飲み干した。こうして二人で汗を流す休日も、悪くない。 むしろ、これ以上の幸せなんてないんじゃないか——本気でそう思えるほど、充実した時間だった。
***
——作戦、大失敗。
私の横を歩く陽一さんは、テストステロンで野獣化するどころか、疲労困憊で手すりに掴まらないと階段も降りられない状態だ。生まれたての小鹿みたいにプルプルしている。
(あーん! 追い込みすぎた!これじゃ襲うどころか、家着いたら即爆睡コースじゃん! 私のバカバカ!)
ガチ指導が完全に裏目に出た。お泊まりデートはお預け確定だ。
でも、夕日に照らされた彼の横顔を見ると、やりきった充実感に満ちていて、いつもより男らしく見えた。
『今のままだと、白石さんを守るどころか、逆に守られそうで』
さっきの彼の言葉を思い出す。私に引くことなく、対等であろうとしてくれている彼。
(……まあ、いっか。カッコよかったし)
私はそっと、彼の腕に自分の腕を絡ませた。
「晩ごはんは焼肉にしましょ~! タンパク質、たくさんとらないと!」
「そうだね。肉……食べたいかも」
「ふふ、ちょっとだけ肉食になりました?」
私たちは顔を見合わせて笑い合った。
——この幸せな日常が、数日後の深夜、突然のサイレンにかき消されることになるなんて。 この時の私たちは、まだ知る由もなかったのだ。