テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ヴァニティの嘲笑を受けても、アクチュアリティは怒らなかった。
むしろ――
その瞳には、ぞっとするほど深い恍惚が浮かんでいた。
「……格の違い、ね」
アクチュアリティは、ヴァニティの構えた包丁をじっと見つめる。
そして、白い指先を刃へそっと近づけた。
「でもね、ヴァニティ」
指先が、冷たい鋼に触れる。
「あなたの言う『命の価値』を、私はもっと知りたいの」
「……何?」
ヴァニティの眉が動く。
アクチュアリティは微笑んだ。
「だからこそ――」
一歩、近づく。
「あなたに刻んでほしいのよ」
「……」
ヴァニティは黙って女王を見つめる。
アクチュアリティは、まるで恐怖など存在しないかのように包丁へ身を寄せた。
白いドレスの胸元に、小さな赤い痕が生まれる。
しかし、それはすぐには消えなかった。
「……!」
ヴァニティの目が見開かれる。
「この世界の修復が……止まってる?」
「ええ」
アクチュアリティは楽しそうに笑う。
「私がそう望んだから」
白銀の空間に、赤い一点が残る。
それは小さい。
けれど、この世界では異物だった。
「見て」
アクチュアリティが、その赤を指先で示す。
「あなたが嫌っていた、この完璧な白に――あなたの色が残ったわ」
ヴァニティの瞳が細くなる。
「……何がしたいの?」
「簡単なことよ」
アクチュアリティは微笑んだ。
「あなたの誇る『愛の精密さ』を見せてほしいの」
包丁を見る。
そしてヴァニティを見る。
「この世界に、あなたにしか刻めないものを残してちょうだい」
ヴァニティは黙っている。
「あなたが本当にスペクターを信じているのなら」
アクチュアリティの声が静かになる。
「あなたの美学が本当にそんなに完璧なら――」
一歩、退く。
「私を相手に証明してみればいいわ」
挑発だった。
あまりにも露骨な。
けれど――
ヴァニティには、それで十分だった。
「……なるほどね」
彼女の口元がゆっくりと吊り上がる。
「そういうことか」
アクチュアリティが微笑む。
「どうかしら?」
「キミ、やっぱり変だよ」
ヴァニティは包丁を握り直す。
「でも……」
その瞳に、再び鋭い光が戻った。
「嫌いじゃない」
ゆ
1,330
54
78
#specter
ゆ
953
「まあ」
「ボクの世界を否定したんだ」
一歩、踏み出す。
「ボクの料理を笑った」
さらに一歩。
「そして今度は、自分自身を使ってボクの美学を試そうとしてる」
ヴァニティの笑みが深くなる。
「だったら――」
包丁を構える。
「ボクも遠慮しないよ」
アクチュアリティは静かに両腕を広げた。
「ええ」
その表情には、不安など一片もない。
「どうぞ」
「……いいよ」
ヴァニティの黒い瞳の奥が輝く。
「キミのその安っぽい白に――」
刃が、白銀の光を受けて煌めいた。
「ボクだけの刻印を残してあげる」
アクチュアリティは微笑む。
「期待しているわ」
「後悔しても知らないからね」
ヴァニティは深く息を吸った。
スペクターへの忠誠。
キラーとしての誇り。
そして、自分自身の美学。
そのすべてを一本の刃へ集める。
「……これが、ボクの答えだ」
刃が走った。
白銀の世界を、赤い光が一瞬だけ横切る。
そして――
完璧な白の中に。
誰にも真似できない、一本の「傷跡」が刻まれた。