拝啓、世界で一番愛されている俺へ。
固く降り積もっていた雪も溶け始め、こちらの季節はそろそろ春です。いかがお過ごしでしょうか。
俺は今日、魚釣りに出かける予定です。湖に張っていた氷が薄くなってきたので、もしかしたら湖に落ちるかもしれませんが今日は魚の気分なので仕方ありませんよね。水の滴る俺は世界一美しいでしょうから寧ろ世界への貢献。そんな俺の姿を観ることのできる観客が鳥や魚だけであるのが惜しまれます。それはそれとして最低3匹は釣る所存です。焼き魚食べたい。
今朝は鳥たちが窓辺まで飛んできていました。鳥たちは見れば大抵窓枠を啄んでいますが、あれは一体何を食べているのでしょう。木なんですかね。それともそんなに窓枠に虫がいるんですか。俺には確認する勇気がないので、貴方に託そうと思います。世界一愛されている貴方なら虫なんてどうってことないでしょう。俺は固く遠慮しておきます。
そういえば貴方は今もこの家に住んでいるのでしょうか?住心地が良いので俺は特に引っ越しは考えていませんが、そのうち俺にも人恋しくなる時が来るのでしょうか。もし引っ越すのなら、街を一望できる大きな窓があると素敵ですよね。ここからじゃ木ばかりで、どう頑張っても街は見えませんので。
……見たいとも思えませんが。
貴方はまだあの夢を見ることがありますか?それとももう振り切ったのでしょうか?
俺はあの日々が幸せだったとは思いません。小鳥のさえずりで目覚め、月に抱かれて眠る……今の方がずっと穏やかで心地良い生活です。けれど、誰かが隣にいないと愛される機会すら無い。それを俺は深いこの森の中でよく知りました。 初めから出会わなければ嫌われもしないのだから素晴らしいことだと最初は思っていましたが、それが今はとても虚しく感じます。それでも俺はまだ、一人ではなくなる勇気が持てません。
貴方はどうですか?
さて、この手紙を俺が読めるのは一体いつなんでしょう。1年後?10年後?はたまた来世かもしれませんね。
街を追い出されて早7年。今の所誰にも一度も会っていないので愛される目処は立っていません。まぁ街にいた頃も特段誰かに愛された覚えはありませんから、まさか過去の俺が読むしかないなんてことはないでしょう。
この手紙はしっかり封をしてきちんと仕舞っておくので、必ず……何年先になってもいいから、読んで下さいね。
それではまた……俺を愛してくれる人が現れる、その時まで。
敬具、世界で一番孤独な俺より。
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