「俺思うんだよね」
スマホを片手に話しかけてくる長身の男。
「レトさんいなかったら今の俺ってなかったんだなって」
「どういうこと?」
「あんたに憧れてこの活動してさ、それで一緒にいるのって、すごくない?」
ライブが終わって楽屋で二人きり。他の二人はトイレに行っているので今はいない。
「まぁ…俺もゲーム一本でここまでやる日が来るとは思ってなかったよ」
「だよね。それも全部レトさんのおかげかも」
「なんだよ、改まって」
すると、持っていたスマホをテーブルに置いて俺の顔をじっと見つめる。
「…なに」
いつも見せるようなふざけた顔じゃなくて、あまり見てこなかった真面目な顔だった。
「俺、本気でそう思ってんだから」
「わかったけど…」
「わかってないよ」
テーブルを挟んで座っていたこいつが、あろうことかそこに置かれた俺の手を優しく握った。
「あのね、憧れっていうのはさ、それだけじゃ終わらないんだよ」
「え…?」
真剣な表情と真剣な声。咄嗟にされた行動に手を引っ込めることもできず、俺はただその落ち着き払った声に耳を傾けていた。
「憧れて、でもそれ以上のものが欲しくなるとき、ない?」
「…うん」
「俺は今その状態なの」
さっきから何を言っているの?
俺にはさっぱり理解できない。
はぁ、とため息が聞こえてきたので続きの言葉を待ってみる。
「俺そんなにわかりづらいかなぁ…」
「どういうこと?」
「レトさんが鈍感なだけかもな」
優しく握っていた手に少しばかり力が入るのを感じる。
「俺は…その憧れごと手に入れたいの」
「それって…?」
「あんたを手に入れたいって言ってんだよ」
Fin.