一般的には、召喚モンスターはカードで呼び出される部分だけが特徴として知られているが、呼び出すためには
1.ダンジョンで討伐したモンスターからランダムでドロップするモンスターソウルを空のソウルカードで捕獲する
2.モンスターソウルを捕獲したソウルカードを何らかの形で名前を付けて召喚者と契約状態にする
3.契約状態にしたソウルカードを召喚デバイスにインストールする
4.冒険者身分証明書とデバイスを接続してデバイスにインストールした召喚モンスターの召喚を承認する
という手順を踏む必要がある。
1は召喚者本人でなくてもいいのだが、2と3と4は召喚者本人がしなくてはならない。
2の契約に関しては、やり方が2つある。
一つ目が召喚者本人のみで行う簡易契約で、コレは召喚デバイスのアプリを使って契約を結ぶ事になる。
簡易契約のメリットは
1.無料
2.契約の手間がほぼなし、時間も短時間
3.契約者の命令に絶対服従する
4.死亡時の蘇生が必ず成功し、召喚者が契約を破棄しない限り契約が続く
またデメリットは
1.その種族の平均値以下程度の能力しか持てない
2.思考能力がほとんど無い
3.成長もほとんどしない
なんというか、手間いらずのロボットを使役するような感じになるらしい。
実際一部のモンスターは単純労働に使われる事もあるとか。
ただ、簡易契約が出来るのはCランクのモンスターまでで、Bランク以上のモンスターは本契約が必須になるらしい。
二つ目の仲介者を交えた本契約だが、日本では神社で神主さんか巫女さんに「契約の儀式」を執り行ってもらい契約を結ぶやり方だ。
本契約のメリットは
1.契約の内容次第だが、固体の能力が変わる
2.召喚時の経験で成長する可能性がある
またデメリットは
1.有料(カードによって料金別)
2.契約の手間が掛かる、時間もそれなりに掛かる
3.契約した固体毎に対価が必要となる
4.契約者の命令には基本的に従うが、モンスターの判断で動く場合がある
5.死亡時の蘇生に失敗する事があり、契約が消失する危険がある
簡易契約との大きな違いは、モンスターが個性を得る事だろう。
簡易契約がゲームのユニットであるなら、本契約は文字通りの戦友であると言える。
種族ごとに大まかな傾向はあるようだが、個体毎に千差万別の人格があるようで、
少なくとも同じ固体と断定できる本契約モンスターの発見例は報告されていない。
本契約を結んだモンスターに対する国の扱いもまた大きく違いがあるが、日本は幾つかの試験・手続きを経て固体毎に人権と同程度の権利が認められたケースがある。
今回俺が望むのは本契約だ。
低ランクのモンスターと本契約するのは悪手といわれているが、デメリットを飲み込んだ上での判断である。
短期的に見れば簡易契約が良いのは確かなのだが、サマナーとして大成するなら本契約に早い内から慣れておく必要があるだろう。
コミュ障の治療と言う一石二鳥を狙うセコイ打算もないとは言わないが…!
相手は人間じゃないから大丈夫、きっと大丈夫、大丈夫だと良いなぁ…
社務所に控えていた巫女さんに「予約していた小野麗尾ですが」と伝えたところ、すぐに神主さんが儀式を執り行ってくれる事になった。
今日は他に予約が入って居なかったようで、儀式の準備はされていたとの事。
神主さんの指示で手水舎・拝殿での参拝の手順を踏み、本殿とは別の祓殿に案内された。
祓殿に入ると、奥に儀式用の祭壇の様な設備があり、左右に儀式に必要なのか祭具の飾り付けがされていた。
床には中央手前あたりに敷物があり、神主さんから、敷物の上に正座するように言われた。
座ると神主さんから契約の儀式に関する注意事項が伝えられた。
中でも重要な部分だが、
「儀式が進むと貴方の意識が薄れていきます。これは貴方の御霊が魔の物との契約の場に移行する過程であり、現世での意識が無くなると同時に到着するのです」
「……契約の場とは、どの様な場所なのでしょうか?」
「これに関しては、その人と魔の物により異なるとしか言えません。ただ、そこが契約の場である事は貴方の御霊が理解できるでしょう」
「貴方がそこで行うのは御霊と言葉、いわば言霊による約束です。その場における嘘偽り事は瑕疵無く相手に伝わるでしょう。
もし貴方が契約に謀を為し、上手く相手を出し抜けたと思えたのなら彼らもまたそれを理解し、言葉無く目に見えぬ形で代償を払わせてくるやも知れません。貴方自身の為にもゆめゆめ、お忘れなきようお願い致します」
「……はい、分かりました。大丈夫です」
「結構です。それでは儀式を始めて宜しいでしょうか?」
特に追加で質問することも無かったので了承した。
そして儀式が進み、しばらくした時、意識が薄れ途絶えた事を自覚して……
気がつけば、海の中に沈んでいた。
御霊で理解する、とはこういう事なのだろう。
自分が在るのは海の中で、浮上しているのではなく沈んでいると言う事を、感覚で理解できていたのだ。
自分の体を見ると輪郭がかなりぼやけている。
ある程度以上崩れていないのは神主さんによる加護の御陰だと言う事が分かる。
光源も無く、辺りが異常に暗いと理解できているのに、視界は遥か遠くまで見渡せているという事実に意識が追いつかない。
ふと、海の底からこちらに近づいている存在があることに気付く。
あれは……何だ?
鳥か? 飛行機か? いや、海の中で?
震えている?
いや、体の一部が凄い勢いで動いている。
早い、速い、ハヤイ。
あれは……
犬かきだ。
あ、あれ犬? いや、オオカミ、オオカミだ! そうだよな、召喚モンスターはウルフだもんな?
うん、ウルフ? 海で? 何で海で? いや、犬かき、犬かき、うん、犬かき。
なんであんな早いの? 犬かきって水中で直線で泳げるエイホーだったっけ?
エイホー、エイホー、こっちに向かってくる。
ああ、今すげえ混乱しているよ俺、ここに来た瞬間より遥かに混乱しているよ俺、すげえなウルフ。
なまじっか理解できるモノで出来た全く理解できない状況だから余計に訳が分からない。
あ、もう来る。スゲー勢いのまま来る。何かスゲー嬉しそうだなー……
3、2、1、はい、ドーン。
あ、こらお止め! 命を掛ける勢いで俺の顔を嘗めない、なーめーなーい!!!
ほらステイステイステイ、わんわんお、ステイ! ステイと言っているだろう、わんわんお!
オオカミなんだから犬の様な真似をしない! そんな子は犬の名前的な「わんわんお」と名づけますよ!?
え、それで良い? ありがとう? いや、ちょっと待て。
いつの間にか、さらに2匹来ていたウルフが俺に貼り付いていた1匹を引き剥がした。
2匹の内、片方は完全に押さえに回り、もう片方のウルフも押さえながら何処か申し訳なさそうな表情でこっちを見ていた。
俺が水面を向いて溜息を付くと、何故か契約の場は閉じて契約も成立していた。
訳がわからないよ。
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