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「あの扉を開け門をこえればお前の生まれ育った村に行けるだろう。 さっさと村に帰れ」
ノーヴェは冷たく言い放った。
「どうして…?どうしてそのような冷たいことをおっしゃるのですか…?私は、私は貴方様と共に生きると決めているので……ッッ」
「やめろ!!」
マリアの言葉をかき消すように、ノーヴェは叫ぶ。
だがマリアはびくりともしない。ただ、ゆらゆらと悲しそうな瞳をするだけ。
その瞳を見ると、ノーヴェは自らの意志がゆらぎそうになるのを感じ、慌てて目をそらした。
「お前のそれは、 同情に過ぎない。一人で永遠を生きる運命にある俺を憐れんでいるだけだ」
その言葉に、マリアはふつふつと怒りの感情が湧き上がってくるのを感じた。
―――ねぇノーヴェ。気持ちが通じあったのだと、喜んでいたのは私だけだったのですか……?
涙がこみ上げてきそうになり、必死にこらえながらも「ちがう」と言おうとするマリアの言葉をさえぎるようにして、ノーヴェは言葉を重ねる。
「お前は…優しすぎる。我が吸血鬼の一族が生きていく方法を知っているだろう?人の血を、命を奪うことで自らの命を永らえるのだぞ?きっと優しいお前には耐えられないだろう」
マリアは、ノーヴェを愛してからずっと覚悟はできていた。
元々は人の身でありながらも人の血をすすり、太陽の元で日の光を陽びることのできない生活を。
だがノーヴェの言葉にすぐに言い返すことができなかったのは、彼の声に、私への愛と深い悲しみがにじんでいたから。
「ノーヴェ………」
マリアはノーヴェを愛していたから、吸血鬼になろうとした。
彼を愛していたから、共に歩む未来を想い描いていた。 でもそうすることで、彼が苦しむのだとしたら……。
「……分かりました、ノーヴェ」
声が、震えてはいないだろうか?
「マリア……!」
「でも、これだけは忘れないでください。貴方は決して一人ではないということ。たとえ遠く離れていても、私はずっと貴方のことだけを愛しているということを」
マリアの美しい瞳からこぼれ落ちる涙をぬぐってやりたくて、でもそうすると二度と離してやれない気がして。
ノー ヴェは無力な自分をひどく恨んだ。
「……そうか」
これしか言ってやれない自分がイヤになる。
―――どうして…なぜ俺は吸血鬼なんだ…。
だがマリアは、ノーヴェのその短い言葉に、静かに微笑んだ。
「さようなら、ノーヴェ。最愛の人。いつかまた、会いましょう」
マリアはそれだけ言うと、未練をたちきるように、行きたくない、離れたくないという心と足を叱咤しながら駆けていった。
ノーヴェの記憶の中のマリアが、笑っているうちに。 ノーヴェからもらったリボンをゆらしながら…。
「マリア………」
一人大広間に残されたノーヴェは、ぽつりとつぶやいた。
「俺も、愛していたよ、マリア。
……さようなら、最愛の人。 さようなら、もう、二度と会うことのない愛しい人よ」
ノーヴェの瞳から、吸血鬼は決して流れるはずのない一筋の雫がこぼれ落ちた。
数百年の時がすぎ、人々の間では、ある伝説が信んじられていた。
―――目の下から首にかけて火傷の痕がある美しい男と、赤にも青にも見える不思議なリボンをつけた美しい女の2人には気をつけろ。一見ただの仲が良い恋人同士に見えるが、2人の正体は吸血鬼である。女は生まれ変わってもなお、男を愛し続けており、また男も女のことを深く愛している。どちらかを傷つけたものならば、命はないものだと思え。 その2人の吸血鬼の名は…………………………………―――