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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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 帰宅途中でXmasケーキを買ってきた私達は、家の前まで着くと足を止めた。



かける、まだみたいだね」


「本当だね。良かったぁ」



 灯りひとつともっていない真っ暗な家を眺めて、私はホッと安堵の息を吐く。

 お兄ちゃんが居たとしても、コッソリと家の中へ入ればきっとバレはしないと思う。だけど、居ないに越したことはないのだ。


 そのまま門に手を掛けて中へ入ろうとすると、繋いだままだった右手がクイッと軽く後ろへ引かれた。



「ひぃくん……? 」



 振り返った私は、ひぃくんの謎の行動に首を傾げた。



「今日はこっちだよ?」



 ニッコリと微笑んだひぃくんは、私を連れてそのまま自分の家に向かうと玄関扉を開いた。

 いつもひぃくんが我が家に入り浸っているせいか、私がひぃくんの家を訪ねるのは随分と久しぶりな気がする。



(最後に来たのって、いつだろう? 何だか少し緊張するなぁ)



「お邪魔します……」


「いらっしゃーい」



 私の気持ちを知ってか知らずか、呑気な声を出してニコニコと微笑むひぃくん。

 そのまま自室へと案内されると、ベッドの上に腰を下ろしてキョロキョロと室内を見渡す。



「……全然変わってないなぁ」



 そう小さく呟くと、昔の記憶とさほど変わらない室内に緊張がほぐれてゆく。



「お待たせー」



 軽快な声を響かせながら、開かれたままだった扉から顔を覗かせたひぃくん。ニコニコと微笑むひぃくんの手元を見てみると、ジュースの入ったグラスと食器を持っている。

 そのままテーブルの方へと向かうひぃくんを見て、それにつられた私はテーブルの前へと座り直した。



「おばさんとおじさんは?」


「デートしてるよー」


「相変わらず仲良しだね」



 ケーキをお皿に移し替えるひぃくんの姿を眺めながら、おばさん達を想像してクスクスと笑い声を漏らす。



「俺達も今日デートしたから仲良しだね」


「うん」



 フニャッと微笑むひぃくんにつられて、とろけた笑みを浮かべる私。

 思えば、付き合ってから二人きりで外出したのは今日が初めてかもしれない。



(いつも何故かお兄ちゃんが付いて来るし……。今日はお兄ちゃんが居なくて本当に良かった)



 そう思うと、なんだか余計にニヤケ顔が止まらない。



「じゃあ、食べよっかー」



 隣に座ったひぃくんが私を見てフワリと微笑むと、グラスを持ち上げて私の方へと近づける。

 それにならってグラスを持ち上げた私は、隣に座るひぃくんへ向けてグラスを近付けた。




 ────カンッ




「「メリークリスマス」」



 重なった声に、自然と笑い声を漏らす二人。



(なんて幸せなクリスマスなんだろう……)



 さっきからニヤケ顔が止まらない。緩みっぱなしの頬を押さえた私は、目の前で幸せそうに微笑んでいるひぃくんを見つめた。

 好きな人と二人きりで過ごす、初めてのクリスマス。そんな特別な夜に、改めて感謝をすると幸せを噛み締める。


 そんな幸福感に一人酔いしれる私は、緩んだ顔のまま目の前のケーキへと視線を移すと、とろけるような満面の笑みでケーキを頬張った。


 





◆◆◆







「花音。左手出して?」



 ケーキを食べ終わった後、唐突にそう告げたひぃくん。



(……左手? 何で?)



 不思議に思いながらも左の掌を差し出すと、クスリと笑い声を漏らしたひぃくん。



「違うよー、こっち」



 私の手を取ったひぃくんは、優しくその手をひっくり返す。



「いつかホンモノ買ってあげるからね」



 そう告げたひぃくんは、フワリと微笑むと私の左手薬指に指輪をめた。



「……え?」


「クリスマスプレゼント。毎日必ずつけてね?」



 フニャっと笑って小首を傾げるひぃくん。



「嘘……っ。私、何もプレゼント用意してないよ……」



 毎年お兄ちゃん達としているクリスマスパーティーでは、皆んなで豪華な食事をして美味しいケーキを頬張る。ただそれだけだった。

 プレゼントなんて一度も用意した事などない。


 それでも、ひぃくんは毎年何かしらのプレゼントをくれていた。今思い返せば、そうだった気がする。

 毎年くれていたのに、今まで一度も用意した事のない私。



(最低だ……)



 習慣とは怖いもので、今年も皆んなでクリスマスパーティーだとばかり思っていた私は、プレゼントのプの字も思い浮かばなかったのだ。



「大丈夫だよー、花音。ちゃんと用意してあるから」



 自分の失態に打ちひしがれていると、私の頭を優しく撫でたひぃくんがニッコリと微笑んだ。

 そのまま立ち上がって、クローゼットの方へと歩き出したひぃくん。



(……? ひぃくんへのプレゼントを、ひぃくんが用意した? そんな事ってできるの? それって、私からのプレゼントって言えないんじゃ……)



 ゴソゴソとクローゼットを漁るひぃくんの背中を眺めながら、ボンヤリとそんな事を思う。

 プレゼント? らしき袋を抱えて、ニコニコと戻って来たひぃくん。



「はい。これだよー」



 私の隣に座ると、ひぃくんは抱えていた袋を差し出した。



(……何だろう?)



 差し出された袋を受け取ると、綺麗に結ばれた紐を解いてゆく。



「これって……サンタクロース?」



 袋の中を覗いてみると、そこに入っていたのは、この時期定番の真っ赤なサンタクロースの衣装だった。



「うんっ。花音はサンタさんだよ」


「え……? 」



 嬉しそうにニコニコと微笑むひぃくんを見て、改めて手元の衣装へと視線を向けてみる。



(これを着ろって事……、なのかな? それがプレゼントになるの?)



「これを着ればいいの?」


「うん」



 私の問いに、嬉しそうにフニャッと笑って答えたひぃくん。



(そんな事でいいの?)



 一体何が入っているのかと、実は不安に思っていた私。見たところ、よくある普通のサンタクロースの衣装のようだ。

 ひぃくんからの提案には驚きはしたものの、意外にもまともな衣装でホッとする。



(これがひぃくんへのプレゼントになるなら……特に断る理由もないよね)



 期待に瞳を輝かせているひぃくんを見て、思わずクスリと笑みが漏れる。



「うん。わかった」


「本当っ!? やったー」



 一瞬、瞳を大きく見開いて驚いた顔をみせると、とても嬉しそうにニコニコと微笑むひぃくん。



「じゃあ、廊下にいるから。着替え終わったら教えてね?」



 それだけ告げると、ウキウキとした軽やかな足取りで扉へと向かって歩き始めたひぃくん。

 私はそんな嬉しそうな背中を黙って見送ると、ひぃくんが出て行った扉を眺めてクスクスと笑い声を漏らした。



(まるで小さな子供みたい。そんなに着て欲しかったんだ……)



 そんな事を思いながらも、私は手元の衣装へと着替えを始めた。



 


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