テラーノベル
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渡辺には時々悪夢を見る夜があった。
あの日。
病院で医師から告げられた言葉。
「一週間以内に症状が出ます。」
その瞬間の絶望は、今でも心のどこかに残っている。
普段は明るく笑っていても。
眠っている時だけは、心があの日へ戻ってしまうことがあった。
そんな夜は決まってうなされる。
「……嫌だ。」
「なんで……。」
宮舘はその声が聞こえると、すぐに目を覚ます。
「翔太。」
肩を優しく揺する。
「起きて。」
渡辺がゆっくり目を開ける。
「……涼太。」
「夢。」
「見てた。」
宮舘は何も聞かず、そっと抱きしめる。
渡辺も安心したように宮舘の胸へ顔を埋める。
それだけで少しずつ呼吸が落ち着いていく。
___________
けれど、この日は違った。
深夜。
「……っ!」
渡辺が突然苦しそうに息をする。
「違う……。」
「ごめん……。」
「嫌わないで……。」
「置いていかないで……。」
宮舘は飛び起きた。
今まで聞いたことのない声だった。
「翔太!」
急いで身体を起こす。
「起きて!」
何度か名前を呼ぶと、渡辺は勢いよく目を開けた。
その瞬間。
「涼太……!」
渡辺は宮舘へしがみつき、声を上げて泣き始めた。
子どものように泣きじゃくる。
宮舘はただ静かに背中をさすり続けた。
「大丈夫。」
「俺はここにいる。」
渡辺は首を横に振る。
「夢で……。」
涙で言葉が途切れる。
「女になった俺を……。」
「みんなが気持ち悪いって……。」
「メンバーからも。」
「涼太からも。」
「嫌われて……。」
「一人になった……。」
最後まで言うと、また涙があふれた。
宮舘は渡辺の顔を両手で包む。
「翔太。」
「夢だ。」
「現実じゃない。」
「でも……。」
「怖かった……。」
「すごく。」
宮舘は渡辺の額へ優しく口づける。
「翔太。」
「俺は。」
「どんな姿でも。」
「翔太だから好きなんだ。」
「男だった頃も。」
「今も。」
「これから先も。」
「何一つ変わらない。」
渡辺は涙を流しながら宮舘を見つめる。
「本当に……?」
「本当だ。」
「九人も同じだ。」
「みんな。」
「翔太だから笑って。」
「翔太だから心配して。」
「翔太だから隣にいる。」
「誰も。」
「お前を一人にはしない。」
渡辺は再び泣き崩れた。
その涙が落ち着くまで、宮舘は何度も背中をさする。
しばらくして。
宮舘は渡辺の手をそっと握った。
「翔太。」
「もう。」
「あの日の続きを、悪夢のままにしないようにしよう。」
「え……?」
「怖かった記憶より。」
「幸せだった記憶を。」
「これから二人で増やしていこう。」
渡辺は静かに頷く。
「うん。」
その夜、二人は互いの気持ちを確かめ合いながら、長い時間寄り添って過ごした。
言葉を交わし、抱きしめ合い、深く繋がって、ドロドロにキスをする。
不安よりも安心が心に残る夜となった。
___________
翌朝。
カーテンの隙間から朝日が差し込む。
渡辺はゆっくり目を覚ました。
「……。」
体が気だるい。
しばらく天井を見つめる。
そして、小さく笑った。
「夢……見なかった。」
隣では宮舘がまだ眠っている。
穏やかな寝顔だった。
渡辺はそっと宮舘の手を握る。
その温もりが、夢ではなく現実だと教えてくれる。
宮舘も目を覚まし、優しく微笑んだ。
「おはよう。」
「おはよう。」
「昨日は眠れた?」
渡辺は嬉しそうに頷く。
「うん。」
「何も怖くなかった。」
宮舘は安心したように微笑み、渡辺の髪をそっと撫でた。
「少しずつでいい。」
「あの日の記憶より。」
「これからの幸せを増やしていこう。」
渡辺はその言葉に頷いた。
「うん。」
その日を境に、渡辺が夜中にうなされることは、少しずつ、そしてやがてほとんどなくなっていった。
あの日の恐怖は消えなくても、それ以上に温かな思い出が、少しずつ心を満たしていったからだった。
コメント
2件
読み終わりました。とても温かくて、胸がじんわりしました。宮舘くんの「どんな姿でも翔太だから好き」という言葉、あれがこのお話の芯だなと思います。悪夢の内容が具体的だからこそ、その後の「現実の温もり」が際立って届いてきましたね。二人の関係性が、言葉以上に距離の近さで伝わってくる構成が好きです。
#🖤💚