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『一緒に、楽になろ』
半ば強制的に屋上まで腕を引っ張られ、
そう言われた。
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待ち合わせ場所には私と真っ黒な猫。
「あ、来た来た 」
『ごめん、遅れちゃって』
「気にしないで、行こ」
いつも遅れてくるから、今日は遅めに家を出たつもりだった。それでも遅れてきた。
私の幼馴染、田辺 真彩。
待たされるのは、いつも私。
『ね、莉奈。ちょっと』
軽く手招きをされ、
「ん?」
深く考えずに着いていく。
「あれ、指どうしたの?」
薬指に貼ってある絆創膏が赤く滲んでいる。
『…あー。ちょっと、ね。それより』
目を逸らされ、はぐらかされる。教えてくれてもいいのに。
『この前さ、渡しそびれちゃって。
はい、これ』
「あ、お返し」
バレンタインのお返しを1週間遅れで貰ったのは、今日がはじめて。
包み紙を留めてあるマスキングテープが、全くズレていなくて器用だと感じた。
「全然いいのに」
『いや〜、あはは。絶対に渡したくて』
腕を後ろで組み、不自然に笑う真彩に違和感を覚えた。
でも、深く考えないようにした。何となく。
「ふーん。もう食べちゃってい?」
包み紙を破らないように、慎重にテープを剥がそうとすると腕を掴まれ、
『あっ!待って、今ダメ』
「え、ダメ?なんで」
不思議に思って顔を見ると、焦っているように見えた。
『とにかく、ダメ。家で食べて』
「う、うん…わかった」
よく分からないけど、ダメだったらしい。
私は家で食べようと、カバンの底に仕舞った。
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『ごめん、門限あるから…またね』
「うん。またね〜」
小走りで帰る真彩に声をかけ、見えなくなるまで立ち止まる。
少しモヤモヤすることがあった。
でもこんなところで考えてても埒が明かない。
とりあえず家に帰ろう。それから考えればいい。
そう自分に言い聞かせ、早歩きで帰る。
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「…」
慎重に、慎重に、テープを剥がし、開封する。と、美味しそうなハート型のチョコが顔を出した。
「わっ、美味しそ…」
思わず声が漏れ出た。それと同時に、変な臭いが鼻を刺した。
「なんの臭い?生臭い…」
明らかチョコから臭うけど、見た目がいいから気にせず食べた。
臭いはどうであれ、味が良ければすべて良し。そう思い、チョコを頬張る。
「んっ。美味し」
そう思ったのも束の間、一気に鉄の味が口の中に広がった。
「お゛ぇっ…なにこの味…」
鉄の味、っていうか…
「…え、血…?」
その瞬間、真彩の薬指を思い出した。
もしかして…
「…いや、え?…は、うそ…」
よからぬ事を考え、鳥肌がたつ。
私の考えすぎならいいんだけど…
1話【 混血 】