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ライブを終えた夜のホテルは、熱を帯びたまま静けさに包まれていた。
打ち上げも終わり、他のメンバーはそれぞれの部屋に戻った時間。
廊下には、絨毯に吸われた足音と、かすかなクーラーの唸りだけが響いていた。
カイは部屋の窓を少し開け、外の夜風に肌をさらす。
汗はシャワーで流したはずなのに、まだ火照りが引かない。
ベッドの上には浴衣地のホテルパジャマ。
冷えた水を一口飲むと、喉を伝って落ちていく感覚が気持ちよかった。
「……やっぱ、暑いな」
誰に向けるでもなく呟いたそのとき。
部屋のチャイムが鳴る。
「──アロハ?」
ドアを開けると、そこには、ラフなTシャツ姿のアロハが立っていた。
いつもより少し、表情が柔らかい。
右手にはペットボトルの緑茶。
左手はポケットに。
「カイくん、起きてた?」
「……そっちこそ、なにしてんの。もう夜中だよ?」
「眠れなくて。……来たくなっちゃった」
冗談みたいに言って、でもその声は静かで真剣だった。
カイは小さく笑い、ドアを開いたまま身を引く。
「じゃあ、どうぞ」
アロハが部屋に入ってきた瞬間──空気が、ふっと変わった。
さっきまでひとりでいた空間が、別の熱を帯び始める。
ベッドに腰を下ろすと、アロハが何気なく言った。
「……さっきのステージ、カイくん、すごく綺麗だった」
「……いきなりなに」
「本音。あの汗の光り方とか……照明の当たり方。ずっと見てた」
カイはわざと視線をそらす。
「やめてよ、変な言い方」
「変じゃないよ。……好きって意味で 言ってる」
そのまっすぐな言葉に、カイの心臓が跳ねる。
アロハは、わかってて言ってる。
ずるい。
「……あんたさ。好きとか簡単に言いすぎなんだよ」
「じゃあ……証明する?」
「──は?」
言い終わらぬうちに、アロハの手がそっとカイの頬に触れた。
触れた瞬間、そこから熱が伝ってくる。
まるで指先に温度があるみたいに。
「今夜だけじゃなくて……ううん、今夜も特別にしたい。……ダメ?」
カイはしばらく黙っていた。
けれど、次の瞬間──自分からアロハの首に腕をまわしていた。
「……なら、やさしくしてよ」
アロハの目が揺れる。
そして、微笑んだ。
「もちろん」
唇が重なると、静かな部屋に呼吸だけが残った。
最初のキスは浅く、確認するように。
二度目のキスは深く、舌先が触れ、絡まり、体の芯まで熱くする。
カイの背に回されたアロハの手が、肌を撫でる。
その指は確かめるように、ゆっくりと。
ただ触れているだけなのに、全身が敏感になっていくのがわかる。
「……カイくん、声……我慢しなくていいよ」
「っ……、うるさい……」
シーツの上にカイの身体が沈む。
ホテルの柔らかな照明が、彼の肌を琥珀色に染めていた。
アロハは服の端をまくり上げながら、首筋にキスを落とす。
その熱と、ゆっくりと這う唇の感触に、カイの喉から小さく震えた息が漏れた。
「……ちゃんと、気持ちよくなって」
「……っ、もう、なってる……」
途切れそうな声。
それだけで、アロハの心も高鳴っていく。
指先で肌をなぞり、舌で甘噛みし、優しさと熱が交互に襲う。
愛撫はじっくりと、言葉よりも深く、カイの奥に届いていく。
シーツの上でからみあう熱。
カイの指がアロハの背中にしがみつき、声が途切れ、涙が滲む。
その夜、何度も名を呼び合って、ふたりはただ確かめあった。
誰の目にも触れない、ふたりだけのやさしくて熱い時間。
──夜風が、まだ少し開けた窓から、静かにカーテンを揺らしていた。