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#異世界転生
教室の窓から、じわっとした熱気が入り込んでくる。
「……暑い」
渚が机に突っ伏しながら言う。
「もう7月だしね」
紅葉が苦笑する。
「今でこの暑さとか…8月とか死にそう」
陽向はうちわをぱたぱたと仰いでいた。
「……」
こはるは、窓の外をぼんやりと見ていた。
青い空。白い雲。
少し強くなってきた日差し。
(……もう夏、か…….)
「そういえばさ」
陽向が思い出したように顔を上げる。
「今日、商店街で七夕祭りじゃなかったっけ?」
「あー、確かそうだったかも」
紅葉が頷く。
「短冊書くやつでしょ?」
「そうそう」
「せっかくだし、学校帰りにみんなで行こうよ!」
渚が顔を上げる。
「平日で人もそんなに多くないだろうから。いいかもね」
うちわで顔を仰ぎながら雪斗が答えた。
(確か…短冊に願い事を書くやつでしたよね。)
「皆さんは、何か願い事あるんですか?」
「決まってるじゃん!私は期末のテストの点数アップ」
「それは勉強すれば叶うやつだよ」
紅葉が呆れながら言う。
「そう言う紅葉は?」
「書いてからのお楽しみ。」
「えー、じゃ、陽向は?」
「んー……彼女できますように?」
「は?」
渚から漂う殺気。
「いや、冗談です」
わいわいとした空気が広がる。
「こはるは?」
ふと、紅葉がこちらを見る。
「え?」
「願い事」
「……えっと……」
少しだけ、言葉に詰まる。
「まだ、考えてないです」
「何か意味深な感じ?なになに!おしえて〜!」
渚がこはるに抱きついてくる。
「いやいや、本当にまだで……」
困ったように笑うこはる。
(…………)
渚に頬擦りされながら、
(……私の願い事………)
そんなことを考えていた。
⸻
商店街
あらゆるところに笹が飾られており、その前には…
【ご自由にお使いください】
短冊とペンが置いてあった。
「おー、意外と結構短冊が飾られてるなぁ」
「どれどれ〜」
渚と陽向が覗き込む。
「“プリ○ュアになりたい”」
「“お金持ちになりたい”」
「”ユーチューバーになれますように”」
「子供の願い事可愛い(笑)」
微笑ましく笑う渚。
「あ、ちょっと待って」
急に真顔になり、別の短冊を読み上げた。
「“彼女ができますように”」
「陽向……あんたいつ書いたのよ……」
「違うわ!」
笑い声が広がる。
⸻
「はい、こはるも書こ」
渚に短冊とペンを渡される。
「あ、ありがとうございます」
手に取る。
ペンを持つ。
⸻
(……)
少しだけ、考える。
“ありがとうを”
書きかけて、止まる。
(……違う)
そっと消す。
“私も大好”
書こうとして、手が止まる。
(……これも、違う)
ペン先が、空をさまよう。
(……伝えたい言葉……)
(……でも……)
ゆっくりと、言葉を探す。
⸻
書き終えて、少しだけ息を吐いた。
「書けた?」
こはるの様子を見るながら、短冊に何を書こうか迷っている紅葉。
その声を聞いた渚が、
「え?書けたの?どれどれ〜?」
ひょいっ
こはるの短冊を奪った。
「えっ、ちょ、ちょっと……!」
慌てて取り返そうとするこはる。
「“想いがちゃんと届きますように”……?」
「お?」
「え?!こはるこれ!好きな人に……ってこと!?」
キャーと盛り上がる女子。
紅葉が男子には聞こえないように…
「もしかして雪斗?」
「えっ!?」
一瞬、言葉に詰まる。
(……雪斗へ届いて欲しい想い)
……でも、それは
「ち、違いますよ!」
「なんだ、てっきりそうだと思ってたのに。」
「え?こはるってそうなの!?キャーまじ!!??」
「……そういうのじゃなくて……」
言いかけて、少しだけ言葉が詰まる。
「……ちゃんと、届いてほしい想いがあって……」
⸻
少しだけ、表情がやわらぐ。
それ以上は、続かなかった。
⸻
「え〜やっぱ好きな人じゃん!照れてるだけでしょ〜!」
渚はそのまま、軽く盛り上がる。
(……てっきりそうだと思ってたのにな〜)
ここ最近のこはるを見て、そう思っていた紅葉。
勘が鈍ったかな、とこはるの方をもう一度見る…
照れているとか、
揶揄われて困っているとかではない……
少しだけ寂しそうな笑顔。
そんな表情を見て。少しだけ違和感。
短冊を見る。
もう一度、こはるを見る。
(……想いが届きますように…)
(……何で”届いた”先じゃないんだろう)
⸻
一通り盛り上がった渚が、今度は男子の方に向かって行った。
「雪斗は何書いたの?」
「え、俺?」
「そう、あんた!」
話題がそちらに移っていく。
⸻
「……」
雪斗は、少しだけ視線をこはるに向けた。
(……ちゃんと、届いてほしい想い……?)
⸻
少しだけ気になっていた。
⸻
でも
「……まぁ、適当に書くわ」
そう言って、視線を逸らした。
⸻
“テストでいい点が取れますように!!”
“彼女に怒られずに過ごせますように”
“勘を取り戻せますように”
“獣医学部に行けますように”
“想いが ちゃんと 届きますように”
それぞれの願い。
それぞれの想い。
笹に結びつけられたたくさんの短冊が、夏の夜風に揺れていた。
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