何故、口パク?
そんな事を考えながらも、兄さんが何を言っているのか、必死に読む。
【笑って、生きろ】
そんな至って単純な事を言っていた。
兄さんは俺が読めた事が分かると、そっと嬉しそうに、幸せそうに、少し寂しそうに微笑んだ。
ーー指先から凍ってゆくにも関わらず。
「兄さ、なん、で、?」
震える声で、炎露はただ呆然と兄さんに問いかけた。状況が理解できないとでも言いたげに。
バキッ!そんな鈍い音を立てて、兄さんは掴んでた炎露の手を離した。
その勢いのまま、指先から兄さんは砕けた。
光になって、散り、空に溶け込むかのように兄さんは消えた。
炎露は目の前で兄さんが死んだショックか。
自身の能力が発動してしまったせいか。
相当こたえているようで、過呼吸を起こしかけていた。
「お前は悪く無い」
力なく座り込む炎露の背を撫でながら、俺はそう声をかけた。
遅れてきた血濡れの主は、炎露に向かって単調に、「それは運命だ」と言った。
炎露は泣かなかった。俺も、泣かなかった。
兄さんは笑えと言ったから。
ただ、炎露は思い詰めた表情をしている。
炎露は身震いを起こしていた。息も上がっている。
苦しそうだ。
「炎露、これからは…あっ」
俺が言葉を紡ぐ前に、炎露は勢いのまま部屋を飛び出した。
炎露の部屋に勢いよく入って、そのままドアを凍らせた。
……最悪の事態だ。
だが、炎露が出る気が無いなら、俺は無理強いはしない。
ただ、俺は待っている。
兄さんの、遺言をこの胸に抱きながら…。







