テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
[研磨目線]
(……あれ)
人混みの中、
さっきまで隣にいた彼女が見えない。
(迷った……?
いや、人が多いから、ただ隠れてるだけ……)
そう言い聞かせながら歩いていたら──
見つけた。
彼女が知らない男に話しかけられて、
少しずつ後ろに下がっている。
(……めんど)
胸の奥が、
ざわっと重たく熱くなる。
近づいていって、声を漏らす。
「………何してんの」
男も彼女もこっちを見る。
男はニヤッと笑って言った。
「なんだよ、お前彼氏?」
「うん」
迷いなく答えて、
そっと彼女の手首を握った。
冷たくなっていた。
(……こわかったんだ)
男が何か言い訳を並べようとした瞬間、
研磨は小さく息を吸う。
「困ってるの、わかんないの…?」
静か。
淡々としている。
でも、奥にある感情は全然静かじゃない。
「……その子、後ろに下がってた。
目も合わせてなかった」
淡々と指摘する。
分析されてると気付いた男は顔をしかめる。
「めんど……くさい、性格だな」
「…うるさい。それはこっちのセリフ」
研磨は一切感情を表に出さないまま言い放った。
「……彼女の気持ち、わかんないなら
話しかけないほうが、いいと思う。
てか、話しかけないで。」
それは怒りじゃない。
拒絶。
男は何も言えずに去って行った。
研磨はすぐ彼女の顔を見る。
「……ごめん。
こわかった、よね」
声が小さくなる。
彼女が頷くと、
研磨はきゅっと手を握り直して、胸の前に引き寄せた。
「……俺目を離しちゃってごめん。
ちゃんと、守るから…」
少しだけ震えた声。
「……絶対、離れないから」
小さな声なのに、
静かで強くて、ずっと胸に残る言葉だった。