夏が終わりに近づき昼間はまだまだ暑いのに夜の風が少し涼しくなる頃、なんだか無性に不安になる。
そんな季節が関係するのかわからないけれど、忘れかけた頃に忘れないで、とでも言うかのようにまた呼ばれて断れない俺はやっぱり彼を愛しているんだと痛いくらい自覚する。
涼ちゃんが一瞬席を外していない時を見計らって、元貴が側に来て小さな声で「今夜、空いてる?」と囁いた。
少しだけそのいつもと違うトーンに返事が遅れた、それに元貴は気づいただろうか。
「ん、空いてる···家、行こうか?」
「おねがい、鍵預けとく」
それ以上の会話は不要と離れていつもの元貴に戻る。
久しぶりだ、家にこんな風に呼ばれるのは。前は暑くなる前だったか、暑くなってからだったか。
仕事を終えて昼の暑さを少し残した夜道を歩きながら元貴の家に向かう。
手にはコンビニで買ったお酒やお茶、朝食用にサンドイッチやヨーグルト、プリン。そして一応避妊具も買った自分を少し恥ずかしく思いながら預かった鍵でドアを開ける。
「お邪魔します···元貴?」
シャワーの音が聞こえる。
少し早かったか、と思いながら勝手に冷蔵庫に買ったものを片付けてソファに座る。
「あ···いらっしゃい」
濡れた髪を拭きながら元貴が隣に座る。
「···ごめん、急に呼んで」
いつもの彼らしくはない、申し訳なさそうな自信のなさそうな声に別に、と言って背中を軽く叩く。
「シャワー、借りるね。タオルも」
着替えを持ってバスルームへ行く。
そこには熱気がまだ籠もっていてさっきまで裸の元貴がいたと想像してしまい、いけない、と慌てて熱いシャワーを浴びた。
一番最初は正直戸惑った。
そして俺だけじゃないと知って悲しみもあった。
けど人間慣れるのだ、それに何があっても元貴を嫌いになれない自分がいる限りもう受け入れるしかないと今は悟っている。
サッと汗を流して部屋に戻ると寝室から間接照明の光が漏れていた。
「おまたせ」
「···ううん」
「夏が終わる気がして寂しいね」
「···うん」
「元貴は、寂しがりやだから」
「···うん」
隣に座って頭を撫でると身体をゆっくり俺に預けて目を閉じている。
こんな風にか細く弱々しい姿は、俺と···たぶん、涼ちゃんしか見たことが無いだろう。
「···ぎゅって、して」
抱きしめると元貴の匂いがして、凄く落ち着く。
「もっと···」
強く抱きしめてその唇にそっとキスをする。
最初は本当にこんなことしていいのかわからなくて戸惑う俺に元貴から色々とお願いされた。
今ではすっかり流れと元貴が望むことがわかってその通りに進められるようになったけど。
「わかい···来てくれてありがと···」
可愛く甘える元貴をそっとベッドに押し倒し、服の下にある素肌をなぞる。胸を刺激してやると口を押さえて声を我慢する元貴が身体を震わせた。
「ん···っ、ぅ」
「なんで我慢するの?声聞かせて···」
「だって···っ、へんな声だしっ···」
ちゅ、と突起を吸ってやるとびくびくと身体が跳ねる。
「あっ···んん、んっ」
「可愛い声···だから聞かせて」
「や···わかい···、もっと···」
元貴が気持ちいいように責めると我慢しきれなくなったのか諦めたのか声が少し大きくなる。
元々、元貴は積極的だった。
初めて誘われたあの時から···。
『こんなこと若井にしかお願いできないから···』
そう言って元貴に押し倒されてズボンも下着も下ろされてそこを咥えられてその可愛い顔で気持ちいい?なんて言われたらもう理性が持たなかった。
誘われるがままに元貴を抱いて、愛して、2人でぐちゃぐちゃになるまで気持ちよくなって、朝目を覚ました時に愛してる、と伝えた時の狼狽えた表情を見てあれ、思ってたのと違うと思った。
『···俺、抱かれてるとひとりじゃないって思えるの。俺のことを求めてくれてるって、寂しくないって、愛されてる、価値があるって···だから、若井が嫌じゃなかったら···俺とまたしてくれない? 』
元貴が俺を誘ったのは寂しかったから。ただそれだけでそこに恋や愛があるわけではなかった。好きではいてくれるけれど、ただそれだけ。
それがわかっても元貴を突き放すことはできなくて、今のこの関係に至る。
「···若井、下も触って欲しい」
そう言いズボンも下着も脱いでいき、元貴は主張しているそれを俺の太ももにこすりつける。
「ん···は、我慢出来ない、いっぱい愛して、さみしくないように」
そう、元貴は寂しいんだ。
寂しさを埋めるために俺の身体を求めてる。
「寂しさなんて忘れさせるよ」
それが俺の存在意義なら。
指で後ろを解しながら前にもローションを垂らしてゆるゆると刺激してやる。
「ん、んん〜〜ッ 」
ピン、と身体を弓なりに反らして目を閉じ気持ちよさだけを追いかけている。
それでいい、それで寂しさが紛らわせるなら。
「もう、かなりとろけてる··ほしい?これ」
自分のを入り口に軽く当てるだけで元貴の腰が早く、という風ゆらゆらと揺れる。
「ほし、ほしいっ、はやくぅ···」
「···っ、挿れる、よ 」
自分で聞いておきながら元貴のおねだりに動揺してしまう。
「んっ、ぅ、ぁぁ···っ」
とんとん、と浅いところを突いてやる。
「はぁ、いぃっ···んっ···わかい、いぃよぉ···」
飲みこまれたところが溶けそうにあつい、元貴のその奥は更にあつくきつく俺のを離さないようにきゅうきゅうと締まる。
「んッ、お、おくも、いいの···きもちい、わかい、ねぇ、もっと···、めちゃくちゃにしてっ···」
壊れるんじゃないかと心配になるが柔軟なその身体は更に脚を開いて俺を取り込む。
ぐりぐりとその奥をめがけて突いてやると一際大きく元貴は喘いで熱いものを出した。
「んぁッ、でる、でちゃ···ぁ゙ぁっ!」
「いっぱい···けど、まだ、だよっ」
イッたことになんて構わず更に腰を打ちつける。はぁはぁと荒い息の元貴は恍惚の表情でその先の気持ちよさを求めている。
「ぃ゙ッ、いったの、にぃ···またきちゃぅ···!きちゃうぅ···!」
「何度でも···ッ、いって···!」
中が痙攣して、同時に透明な液体がぴゅく、と出て2人を濡らす。
そのあとも奥を突くたびに痙攣は止まらない。
「んぁッ、も、むりぃ···わ、わかいのちょうだい···奥にほしい···!」
「俺も···もうッ···」
脚で腰が離れないように締め付けられ、俺は奥に何度も注ぎ込む。
「はぁ、はぁ···ン、なか、あったかい···気持ちいい···」
嬉しそうに呟く元貴の隣に転げ込むと2人して暫く息を整えた。
「わかい···気持ち、良かった···?」
「めちゃくちゃ気持ちよかった···こっち、おいで」
少し汗が冷えて冷たくなった背中を抱きしめる。
俺は、満足させてあげられただろうか···そう思いながら元貴に口づける。
「俺も、良かった···若井ありがと···また頑張れそう···」
元貴はそう言って目を閉じ眠ってしまった。俺はタオルで出来る限り綺麗にしてやり、布団をかける。
少しだけ窓を開けると涼しい空気が流れ込んできた。
どんな季節も移ろいゆく。
あんなに暑かった夏もだんだんとその終わりを感じさた。けどまだそれに気づか無かったことにして俺は下着だけ身に着けて元貴の隣へと身体を滑り込ませた。
季節が変わりゆくからこそ、元貴は俺を求めるんだろうか。
いっそもっと寂しくなればもっともっと俺は元貴にとって価値のある人間になれるんだろうか···それとも他の誰かを求めるのが増えるだけか。
聞きたくもない答えもない疑問は考えるだけ無駄というものだろう。
明日になればこの夜なんて無かったかのようにいつもの元貴に戻って俺に早く起きないと遅刻するよ、なんて笑うんだから。
そしてまた忘れかけた頃に···。
「けど俺は···元貴のこと···」
もう伸びてきた襟足の辺りに唇を這わして見えないところに印をつける。
誰も気づかなくていい、けどほんの数日でも俺のものだと証明したかった。
俺のものにはならないって知っている。 けど他の人のものにもならないでほしい、だから元貴に求められれば俺はなんだってする。
「元貴はめちゃくちゃ愛されてるよ···俺に···それに、涼ちゃんにも」
涼ちゃんとも関係があると元貴は最初に俺に告げた。
同じように、抱いて貰ったと。
元貴の愛されたい欲望の器は大きすぎて、俺だけでも涼ちゃんだけでも埋めることはできないから。
寂しいと、愛されたいと···その足りていないことこそが元貴をアーティストとして活かしているなら、必要不可欠なものだから、仕方ない。
「こんなに···今は俺のものなのに」
せめて今だけは、この夏の夜だけは。
俺だけの愛で満たされた元貴であってほしかった。
翌朝、目覚めると隣にもう元貴はいない。
寝室のドアが開いてきちんと仕事に出かけられるよう用意した元貴が顔を覗かせる。
「若井、早く起きて!遅刻するよ、朝食一緒に食べよう」
「おはよ、やばっ、行くわ」
持ってきていた服に着替えて顔を洗う。
「今日も暑そうだなー、予定は···打ち合わせと雑誌の撮影と···」
いつも通りの元貴が予定を確認しながらサンドイッチに齧り付いている。
朝食を終えて靴を履いている元貴の襟足の辺りに昨日俺がつけた赤い印がほんのりと見えた。
じぃ、と見つめる俺に気づいた元貴が振り返り「なに?」と訝しげにこっちを見る。
「別に!···あー、ほんとに暑そうだな、いい天気」
元貴を追い越して一足外に出るとそこにはまだまだ夏が広がっていた。
すっかり夏が去る頃にはまた心が不安になるような寂しくなるような夜が元貴にも訪れるだろうか。
何度でもその時は彼に何でもしてあげようと思う、俺にできることはなんでも。
隣に並んでいつも通り目線を下げると元貴と目があった。
「あっちぃね」
そう言いながらもどこか楽しそうな元貴を見て俺は思う。
やっぱり俺はそんな元貴を愛してる。
「あっちーね···でもやっぱ俺、好きだわ」
「俺も、好きだな」
ふふっと幸せそうな笑い声が青い空に溶けていった。
体調不良諸々重なり長編のカタオモイが進まない中、短編書いちゃうという···そして同時に3作品くらいちょこちょこ書いてて何も終わらず···。
まだ暫く完全復活までは掛かりそうで読む方に専念しようかな、と思っています。素敵な作品を読んでいると元気出ます···更新頻度が早い方とか尊敬でしかない···。
でもこの作品の涼ちゃんバージョンも書きたいなぁ···。
まだまだ暑いので皆様も無理なさらずに。
コメント
8件
切なくて寂しくてかわいいお話、ありがとうございます‥! 暑すぎますから、体調ゆっくり整えられてくださいね🥲
更新、ありがとうございます❣️ はるかぜさんのペースで書いて下さったら、読者としては嬉しいです✨ そして💛ちゃんバージョン見てみたいです🫶