「ねぇ、寂さってどうしたら無くなるかな」
元貴がそう僕に問いかけたのはいつだったか···僕はなんにも考えずに思いつくままの返事をしたことは確かだっ
た。
「んっと···誰かと一緒にいるとか?抱きしめて貰うとか?」
「じゃあ、してくれる?」
「え、あ、はい」
自分が言ったことをすぐに実行することになるとは思わなかったけど元貴の部屋で2人きりだ、言う通りにハグしてやる。
気の利いたことも言えなくって、と困っていると元貴は僕の胸に頭を押しつけて足りないんだけど、と呟いた。
足りない。
元貴がしてほしいことに足りていないということ、ならしてほしいことを聞けばいいのだ、と珍しくピン、と来た。
「足りないんだね、つまり元貴は何が望み?」
なぜか赤くなる元貴の顔を見てやっぱり僕は気が利かなかったか、失敗したかと思い、ごめん、聞いたらいけないことだったかなって謝る。
「···いて」
「ん?なんて?」
「抱いて」
「あ、はいはい」
さっきより強く抱きしめてやると元貴の体温が僕にも伝わり、温かくて気持ちいい。
「···涼ちゃん、そうじゃない。俺、寂しくて仕方ないの、抱いてほしいの」
そんな言い回しだとさすがの僕にも別の意味に聞こえてきて、勘違いだと思っても鼓動が早くなる。
「···え?」
僕は元貴にソファに押し倒され、気付けば唇が触れ合いあっという間に舌が触れ合っていた。
「ん、も、ときっ?」
「···涼ちゃんは助けてくれる?俺が困ってたら」
「···もちろん」
「じゃあ、いいでしょ?寂しくて死にそうな俺を救ってよ」
目の前で躊躇いなく服を脱ぎ、あっという間にパンツだけの姿になった元貴から目が離せない。
その白い肌が柔らかく気持ちよさそうで思わず手を伸ばして首筋から胸へと撫でると、元貴は少し嬉しそうな顔をした。そして甘い優しい声でこう告げた。
「若井はしてくれたよ。だから俺、涼ちゃんにもしてほしいの。」
あぁ、そういうことか。
それでもまだ寂しいから、僕のところに来たんだね。
「···無理、ならいい···」
よく言うよ。
若井とのことを僕に言えばどう思うかなんて元貴が一番よく分かっているくせに。
上半身を起こしてパンツの上から元貴のを握る。
「あっ···」
全体をやわやわと握るとすぐに反応して硬さを持って、そこがくっきりと主張する。
「あ、うぅ···」
「僕は、僕なりのやり方でしか抱いてあげられないよ」
若井のことなんてだいたい想像がつく。元貴の望む通りに、理想通りの優しく甘く愛のある物わかりの良い愛情深いセックスをしてあげるんだろう。
僕だって元貴を好きだ。
でも、欲深さと嫉妬は人一倍あるから自分のやり方でしか抱けそうにない。
けどそういったのも元貴の寂しいを打ち消すには必要だから僕にもお願いしに来たんだろう?
「涼ちゃんの···思うようにして···」
「僕が元貴を満たしてあげる」
ぐりぐりと指で硬くなった先を弄るとそこはだんだんと潤いを帯びてくる。
「じゃあ、それも脱いで···僕に全部見せて」
「ぅ···はい」
「可愛いね」
いきなり乗り気になった僕に戸惑いながら全裸の元貴はもじもじと腰を揺らす。
「綺麗だよ、元貴···全部キレイだ」
そうして僕は欲望を満たすように元貴を抱いた。
どうせ次はないかもしれないし、若井のほうが良かったから、なんて言われるかもしれないから僕がやりたいように元貴を愛した。
元貴の寂しさを引き受けて、元貴にすべての愛を渡す気持ちで。
どうやら僕はその時の元貴に上手く応えられたようだとわかったのは2回目に誘われた時だった。
それからも何度も僕は元貴が望むままに抱きしめて、身体を重ねた。
撮影があった暑い夏の日、普段はそんな関係であるなんて素振りを見せない元貴が若井がいない一瞬を見計らったように僕の手に鍵を押しつけて、無くさないでね、と耳に唇が触れそうな距離で呟いた。
たったそれだけ。
けど僕はもう元貴のあの儚くも美しい姿を思い出して、落ち着かなかった。
カチャリ、と鍵を回し部屋に入る。
もちろんその鍵はいつもある場所へと返した。
「元貴?」
「りょ、ちゃん···まってた···んっ···」
寝室では元貴が待ちきれない様子で冷房が効いた部屋で毛布に包まり悩ましい声を上げていた。
「···シャワー浴びてくるよ」
家でお風呂に入ったのに、東京の夜は暑く少し外に出ただけで汗ばんでしまっていた。
あんなに今日、撮影に行った地方は風が心地よくて爽やかな夏、といった感じだったのに。
「···いいから、こっちきて」
服をひっぱられ、僕の胸元に元貴は顔をくっつけてわざと匂いを嗅ぐ。
「ちょっと···」
「りょうちゃんの匂い好きなの···今日もずっと思ってた。草の匂いも、花火の匂いも、風の匂いも···大好きなのにどうして忘れちゃうんだろう、無くなっちゃうんだろう」
儚いものを愛している元貴だからこそこんなにも本人も儚いんだろうか。
ここに確かにあったものが消えていく寂しさはなんだか少しだけわかる気がする。
「忘れたらまたそこにいけばいい···必ず、思い出すから。少なくとも僕はずっとここにいるよ」
ひやりとした空気を感じながらシャツを脱ぐ。元貴の首に舌を這わせて匂いを嗅いだけどびっくりするほどそこは甘美で良い匂いだった。
「っは、たまんない···」
意地悪く首や胸だけじゃなく脇やお腹に舌を這わす。
「いやぁ···」
「じゃあここは?」
そのとろとろと濡れたものを舐める。
「あっ、やぁ···」
ちゅ、と吸いながら先を舐め取り後ろの窄まりにも舌を這わす。
「恥ずかしい···っ、もう、いいから···」
「だめ···腰動いてるよ?もっと、じゃないの?ほら」
「···ぅ、やぁ···きもちいい···もっと、舐めて···」
舐めながら指でそこを開く。
気持ちところをトントンしてやると、元貴はあっという間にイッてしまった。
「んッ、ぁあ···はっ、ぁ···!」
「···寂しいのはなくなった?」
元貴は力なくとろけるような瞳で僕を見つめる。
「まだ、足りない···寂しいから、ほしいの」
「なにが、欲しい?」
そう言ってキスしながらそのやわらかな頬を撫でる。
わかってるくせに、とでもいいたげた目線を投げながらズボンの上から僕のを柔く掴み、これがほしい、と告げる。
「涼ちゃんのこれが欲しい···全部俺にちょうだい、それで満たして」
いいよ、元貴に僕の全部をあげる。
その代わり、元貴の寂しさを僕にちょうだいね。
「りょうちゃん、もっと···あぁ···」
深く深くその奥まで···最後は元貴と同時に果てて、その身体を抱きしめる。
少しでも役に立てただろうか、と頭の片隅で考えながら。
「元貴···シャワー浴びる?」
「んん···うん···」
そう返事しても元貴が起き上がる気配はない。いつものことなので軽く拭いてあげて僕はベッドから離れて シャワーを浴び、すやすやと眠る元貴を少し眺めてからソファに横になる。
元貴がもし、目覚めた時に僕がいないときっと寂しがるから帰ることはしないけどあえて少し距離を取るようにしている。
きっと元貴の寂しさはこんなんじゃないから。もっともっと深くて泣き出しそうな寂しさなんだろう。
少しでもその気持ちをわかりたくて、勝手に僕は元貴から離れる。
「元貴には僕も若井もいるからね···」
朝にはきっと、元貴はいつも通り笑って僕を起こすんだろう、涼ちゃん早く用意しなきゃ、って。
だからこの夜だけは寂しさを感じていたい。 元貴を愛した証として。
その分だけ、君の寂しさが無くなったと信じて。
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