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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。早朝にリナさん達と挨拶を交わして私は私室に戻り朝まで休むことにしました。
そして正午、私はレイミを連れて『大樹』の根元に来ています。
「ここに作るのですね」
「そうです。名前を刻むことが出来ないのは悔やまれますが、情勢を見れば諦めるしかありません」
お父様のお墓はドルマンさんに石碑を作って貰って、ルミ、勇者様のお墓の隣に設置することになりました。名前を刻むことは出来ませんが……。
「遺品については、お兄様やガウェイン辺境伯が用意してくれるそうです。それを納めようと思っています」
「その時は呼んでくださいね?お姉さま」
「もちろんです、レイミ。私達にとって大事なことですから」
優しい風が吹いて私達姉妹の髪を揺らします。
「ふふっ、勇者様の隣となればお父様も恐縮してしまうかもしれませんね?」
「そこは我慢していただくしかありませんからね。他に石碑を作る場所がありませんから」
レイミが苦笑いしながら言い、私も笑みを浮かべて答えます。
お父様、もう少しだけ待ってください。ささやかではありますが、ちゃんとお墓を作りますから。
次に私達は『黄昏』の仕立て屋を訪ねました。
「エーリカ、注文したものはできましたか?」
「シャーリィお嬢様!それにレイミお嬢様も!お待ちしていました!」
いわゆる村娘ファッションのエーリカが店の奥から走ってきました。そんなに急がなくて良いのに。
「エーリカ、そんなに慌てなくて良いわよ」
ほら、レイミも笑ってる。
「いえいえ、そう言うわけにもいきません。それで、こちらが注文された品になります。どうでしょうか?」
エーリカが差し出してきたのは、不思議なもような描かれた布です。
『帝国の未来』に記載されていた『迷彩模様』と呼ばれるものです。記載されていただけでどんなもの分からなかったのですが、何故かレイミが知っていたので彼女にデザインを任せて、エーリカに作成を依頼していたのです。
「レイミ、どうでしょうか?」
「うん、見事な森林迷彩ですね。エーリカ、お手柄よ」
「ありがとうございます!でも、これはどう使うのですか?」
「この模様の布で服を作ってくれないかしら?迷彩服になるわ」
「レイミ、迷彩服とは?」
「認識の阻害と言いましょうか、ちょっと試してみましょう」
レイミに連れられて私達は『黄昏』にある森林公園に来ていた。レイミの提案により憩いの場としてちょっとした森を街の外れに整備したものです。
……苗木から一年で立派な木になりましたからね。『大樹』の影響力は図り知れませんね。便利なので問題はありませんが。
その森林公園でレイミは迷彩柄の布を使ってかくれんぼを行いました。私とエーリカは最後までレイミを見付けられなかったのですが、幼き日の思い出が蘇り楽しかったです。
「これが迷彩効果、カモフラージュといいます。周囲の環境と一体化することで擬装効果を生み出します。もちろん姿を消すわけではないので見付かる時には見付かりますが、注意深く観察されなければ発見されるリスクを大幅に軽減できるようになります」
「この模様にそんな効果があるんですか!?」
「つまり、かくれんぼの名手になるのですね?レイミ」
「その通りです、お姉さま。発見されないと言うことは、戦術に大きな選択肢を与えることになります。正面から堂々と戦うだけが戦術ではありませんから」
「でも、それは卑怯な手段だと思います」
エーリカは騎士道を重んじる部分がありましたね。
「エーリカ、こちらが正々堂々と構えていても相手が付き合ってくれる保証はないわ。ましてここはシェルドハーフェン。負けた側が悪い暗黒街よ」
「それはっ……」
レイミに諭されて言葉に詰まるエーリカ。
「簡単です、エーリカ。勝てば良いのです。それに、忘れないでください。正攻法では、私達の復讐は成し遂げられない」
「シャーリィお嬢様……はい」
納得するのは難しいかな?
「勝つためです、エーリカ。レイミ、カモフラージュなるものについてもう少し詳しい説明を。エーリカ、この柄の服を最優先で作製してください。戦闘部隊に優先して配布しますから」
「はい、お姉さま」
「畏まりました、お嬢様」
渋々と言った感じで迷彩柄の服の作製に取り掛かったレイミでしたが、先ず最初に興味を示したのはリナさん達『猟兵』でした。
「周囲の環境に溶け込むのは狩りの基本!こんな服があるなら、是非とも私達用にも作ってください!」
興奮した様子で仕立て屋に駆け込み、対応したエーリカを困らせると言った珍事が発生しました。
狩猟を生業としていたリナさん達の一族にとってカモフラージュは当たり前の概念。そこに新しく便利なものが生まれたら使ってみたくなるのが生き物の性です。
リナさん達の普段着はエルフの民族衣装。露出が多いあれです。その民族衣装を迷彩柄にしたものを作製。配布することに為りました。
次に興味を示したのはやはりマクベスさんです。
「ふむ、派手な色合いではありますが森林戦等では役立ちそうですな」
「レイミお嬢様の話だと他にもいろんなパターンがあるらしく、状況に合わせた柄があるみたいなんです」
「それは良い話を聞いた。いくつか試作してくれないか?レイミお嬢様のアドバイスを受けながら訓練に取り入れてみよう」
こうして迷彩服は『暁』戦闘部署で一気に普及していくのでした。
さて、私個人としてもわざわざ『ファイル島』まで足を運んだ成果を試さなければいけません。
『有意義な旅路であったようだな、勇敢な少女よ』
「はい、色んな事がありましたが……おおむね満足できる結果で終わりました」
久しぶりにダンジョンを訪れた私はマスターに旅の成果を報告しました。
「そしてこれが今回の成果になります」
私は手に入れた『飛空石』をマスターに差し出しました。それを見てマスターは威厳たっぷりに頷きました。
『質の良い『飛空石』を手に入れられたようだ。これならば空を飛ぶと言うそなたの願望も叶おう』
でも、問題があるんですよね。
「帰路で色々試してみましたが、『飛空石』はあくまでも対象を宙に浮かせる力しかありませんでした。空を飛ぶためには、推進力が必要になります」
『うむ』
「考えとしては、風の魔法を推進力にしようかと」
『悪くない。が、それはそなたの更なる魔法の制御が必要不可欠である。空を飛ぶとなれば、専用の道具も必要となろう』
「はい、マスター」
夢の実現のためには、まだまだ精進が必要です。でも、諦めません。少しずつですが、目的に向かって進んでいるのが分かりますから。
悲願を成し遂げるその日まで、精進あるのみです。