引き続きシャーリィ=アーキハクトです。マスターと空を飛ぶための理論構築を急ぐ傍ら、そのための道具の製作にも取り掛かりました。必要なのは効率よく『飛空石』に魔力を供給して浮力を獲得。そこに推進力を加える道具です。
ドルマンさんと相談して設計を開始することにしたのですが。
「先ずはこんなものを設計してみた」
先ず最初にドルマンさんが持ってきた設計図は、巨大なリュックサックみたいな箱でした。
「中に『飛空石』と『魔石』を組み込んで、大きなプロペラを仕込んである。『魔石』から出る風を更に増幅させて、効率良く空を飛べるようになるぞ」
「じぇっ……ジェットパック……」
それを見たレイミが苦笑いしながら呟きました。気にはなりますが、先ずは。
「問題点は?」
「これはまだ単純な計算だけだが、プロペラを大型化したからデカい事だな。嬢ちゃんの背丈の二倍はある。ついでに重さは大人三人分だ」
「却下です」
そんなの私が潰れてしまいますよ?
「あー、やっぱり無理か?」
「私の体格を考えてください。ついでに私はびっくりするくらい非力ですよ」
どんなに鍛えても筋力が付かないのは悲しいものです。
「うーん、これくらいがちょうど良い効率を生み出すんだがなぁ」
「ドルマンさん、推進力についてはお姉さまに頑張って頂く事にしませんか?なによりも実用性を重視しましょう。これでは戦えません」
レイミが笑顔を浮かべながらドルマンさんに話し掛けています。
「実用性重視か。面白味はないが、確かに使えない道具ほど空しいものはないなぁ」
翌日、私はレイミを連れて港湾エリアにある『海狼の牙』本部を訪ねました。もちろん護衛としてベルも一緒です。
「貴女が楽しそうで何よりだわ、シャーリィ」
「命懸けですけどね。なにか案はありませんか?」
「私達魔女は箒を使うわね。乗ることも出来るし、場所も取らないわよ」
「ふむ、箒ですか」
まさに魔女ですね。参考にしてみましょうか。
「それより、私としては貴女に興味があるわ」
「わっ、私ですか?」
おっと、レイミが狙われた。
「人間でありながら『魔石』を介せずに魔法を使える。それもかなりの魔力を保有している。興味深いのよね」
「そんなに私みたいな存在は珍しいのですか?」
「私が知る限り、ここ千年で記録上でも三人。誤差を入れても十人は居ない筈よ。実に興味深い。私の実験に付き合わない?」
「ダメです、レイミはあげません」
「あら、残念ね」
サリアさんの実験は何気に大変ですからね。
サリアさんから提案を受けつつレイミを護り抜いて三日後、ガウェイン辺境伯から小包が届きました。
「お嬢様、荷物が届いております」
「ありがとう」
私は館の執務室でセレスティンから小包を受け取りました。差出人は書かれていませんでしたが、表面には目印である白鳥が描かれていました。
「シャーリィ、誰からだ?」
部屋のソファーで待機していたルイが立ち上がりながら近付いてきました。
「『ダイダロス商会』からですよ。ルイ、レイミを呼んでくれませんか?セレスティン、ロウとエーリカを呼んでください」
「畏まりました」
「おう」
しばらくするとアーキハクト伯爵家の関係者が執務室に集まりました。
「あー、俺は部屋を出たほうが良いよな?」
「何を言ってるんですか、ルイ。貴方はもう身内なんですよ」
「そうですよ?『お義兄様』。まさかお姉さまに手を出しておいて無関係だと言うつもりですか?」
レイミの追撃。何気にルイを『お義兄様』呼びしたのは初めてですね。
「うぐっ……分かったよ、腹括る」
「それで、お嬢様。この度はどの様なご用件でしょうか?その小包についてだと伺っておりますが……」
ロウが優しげな笑みを浮かべながら尋ねてきました。
「これは、ガウェイン辺境伯からの贈り物です」
「なんと、ガウェイン伯からですか」
セレスティンが少しだけ驚いたような声を出しました。
「先の航海で再会できたって話を聞いていましたけど……それで、中身は何なのでしょうか?」
エーリカの質問に私は頷いて答えます。
「お父様の遺品です」
「なっ……!」
皆が目を見開きました。お父様の件は話していましたが、遺品については話していませんでしたからね。
「中身について具体的なものは分かりません。だから、身内で一緒に改めようかなと」
勿体ぶるのも変ですから、直ぐに披露することにしましょう。丁重に包装された小包をゆっくりと開き、中身を確認します。
「これは……」
中には嫌味に成らない程度に装飾が施された剣と、赤い宝石で装飾された銀のブレスレットが入っていました。
「お姉さま、これは……お父様の剣ですよね?」
「そうですね。このブレスレットは分かりませんが……」
普段着飾る人ではありませんからね。これは何でしょうか?
姉妹揃って首を傾げていると、答えてくれたのはエーリカでした。
「このブレスレット、見たことがあります。お母さんと採寸するために招かれた時、お部屋の化粧台に置かれていまして。何でも若い頃奥様から贈られた品だとか仰有っていたような……」
「お母様から?」
「……思い出しましたぞ。普段はご自身の身形にそこまで拘りのはない旦那様が、唯一持ち合わせていた装飾品です」
「そうでしたなぁ。お嬢様方がお生まれになられてからは、身に付けておられなかったかと」
それを聞いてセレスティンとロウも思い出したように教えてくれました。道理で私達が知らないわけですね。
「おいたわしや、旦那様。如何程のご無念であったことか……」
「おめおめと生き恥を晒すこの身の不甲斐なさを御笑いください」
ロウとセレスティンが剣を見つめながら悲しげに語り掛けていました。
……殉死なんてしないでね?
「ブレスレットをお墓へ納めるとして……レイミ」
「はい、お姉さま」
「お父様の剣を貴女に託します」
「お姉さま!?」
私が持つよりずっと良い。
「私では扱いに難があります。それなら剣に秀でたレイミに託すのが正解だと判断しました。お父様よりよく使われることを望むでしょう」
「……分かりました、お父様の剣は私がお預かりします」
「なあ、シャーリィの親父さん怒ってないかな?俺貴族じゃないんだけど」
無用な心配をしていますね、ルイ。
「問題はありません。身分を問わず、本当に好きになった殿方と添い遂げよと言われていましたから」
本来貴族の娘とは大切な政略の道具。最初から政略結婚を考えていないお父様が異質なだけですが。
「そっか……なら、怒られねぇように頑張らないとな」
「その意気です、ルイ」
私達はそのまま『大樹』の下へ移動。万が一に備えてリナさん達に人払いを頼み、ドルマンさんが作ってくれた石碑にペンダントを納め、祈りを捧げました。
「お父様、仇は必ず討ち果たします。どうか、空から私達を見守っていてください」
……なんか『大樹』が僅かに光ったような気がします。莫大な魔力も感じました。一瞬ですけど。
でも、不思議と嫌な気持ちにはなりませんでした。皆に見守られているような気がして、心が暖まりました。
シャーリィ=アーキハクト十七歳冬の日。お父様の訃報に泣いてしまいました。
けれど、この悲しみを復讐の糧として。お兄様と連携しつつ黒幕を探しながら……更なる勢力拡大を目指します。
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