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「うぇーい!ざぁこざぁこ、お前ら全員、俺みたいなか弱い女も襲えないのかよ〜!」
「言ったなこの野郎!野郎ども!全員でかかるぞ!」
「「「「おおおぉ!!」」」」
クロエが片手に酒を持ったまま、ぐいっと煽るように腕を広げる。
その一言に煽られた酔っぱらい冒険者たちが、椅子を弾き飛ばしながら一斉に飛びかかった。
「あめー! お前も甘ぇ! 動きが全然なってねぇ!」
木のジョッキをひょいと投げ、空いた手で襲いかかる男たちを次々に投げ飛ばすクロエ。
テーブルの上の皿がガタガタと揺れ、周囲からは「おおーっ!」という歓声と笑い声が混じった。
少し離れた席では、ルコサ・ルダ・オリバルの3人がそれを肴に杯を傾けていた。
「お〜、みんな元気だなぁ。あれ、何してんの?」
「どうやらクロエが酔った勢いで“俺と組手して勝った奴と結婚してやるよ”って言ったのが始まりらしいさね」
「あーね。クロって顔は悪くないし、それでいて強いから、冒険者の男には人気なんだねぇ」
「はしたない……」
3人同時にごくりと酒をあおる。
「はぁ〜、私、酔って来ちゃったさね」
「だってよ、オリバ」
「今のはルコに言ったんだろ……」
「私は別にどっちも相手しても良いさね。むしろその方が燃えるさね」
「なぁオリバ、もしかしてうちのパーティーの女達ってやばい?」
「……やばい」
「失礼な奴さね。一度歳老いて“あの時あれをしてればよかったぁ”って後悔すると良いさね」
「はいはい、お婆ちゃん特有の経験談はいいから」
「むぅ……」
「そういえばルダがまだここにいるのって珍しいな? てっきり、こんだけムキムキな冒険者達が居るんだから、襲いまくってるものかと」
「確かに……」
「何さね! 私が所構わずヤるビッチみたいな言い方さね!」
「え!?」
「違うの?……」
「失礼なガキどもさね。私がここに居るのは、ルコサ、あんたに聞きたいことがあるからさね。それを聞いたら……何人か襲うさね」
「あ、失礼だと思っても否定はしないんだ。それで? 何を?」
「まず一つ目さね。魔神を倒して魔族や魔物は死んだはず……でも今も生きてる魔物が居るのは、どういうことさね?」
「それは__」
ルコサが口を開きかけた瞬間、横からオリバルが静かに答えた。
「魔神は死んだ。そして【創造】で作られた魔物たちは全て消えた。今残っているのは【独自で進化した種族】と……『女神』が作り出した魔物」
ルダは薄く目を細め、グラスの縁をなぞる。
「ふむ……お前さんも何か知ってるさね?」
「俺、ルコ、クロ、キーくんは“オリジナル”の【神の使徒】……特にルコは神性が高いが、それを除けば俺たちが高い。だからある程度の情報は持っている」
「ほう、確かに私は“イレギュラー”だと言われてたさね」
ルコサが淡く笑う。
「君のことで例えるとわかりやすいね。君がブルゼになったのは、神が想定していなかった。そこで勇者たちに討伐されて死ぬはずだったけど、生き残った」
「なるほどさね。私はそこでルコサに人間の姿に変えてもらったけど……もしそのまま魔物だったら、今も魔神が死んでも生きてたってことさね?」
「ご名答」
「つまり、神の知らないイレギュラーは世界のあちこちで起こっている……」
「それでもう一つは?」
「女神が作った魔物。魔神が【創造】する前から存在していた連中だ」
「どう見分けるさね」
「……ない」
ルダがぽかんとする。
「はい?」
オリバルは答えを繰り返す代わりに、酒を一口あおった。
「俺たちにも見分ける方法はない。強いて言えば、今残ってる奴らがそうだ、と言うしかない」
「ふむ……危険性は?」
「今まで通り。魔物は魔物だ」
「なるほどさね。さて、聞くことは聞けたし……私は私のお祭りを堪能してくるさね!」
ルダは椅子を押しのけ、グラスを片手に人混みの中へと消えていく。
その背を見送りながら、オリバルがぽつりと呟いた。
「ルコ……言わなくていいのか?」
「ん?」
「魔神が居なくなった今、世界のバランスは崩れた。そこを狙う奴が必ず現れる……」
「『女神』か、【アオイ』だね」
オリバルの目が鋭くなる。
「もし後者だった場合……」
「もちろんだ。その時は__」
ルコサの口元が、氷のように冷たく歪む。
「僕たちも含め、勇者全員で【アオイ』を殺す」