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『元気?久しぶりにご飯でもどう?』
そんなLINEが洋子さんから届いた。
そうだ、離婚することにしたと打ち明けて、アドバイスをもらおう。
待ち合わせたファミリーレストランは、意外と混んでいた。
「なんにする?」
「このシェフのオススメランチでどう?」
「そうだね、変なもの勧めて来ないだろうし」
店員さんに、シェフのオススメランチを二つ注文する。
「こういうファミレスってさ、やっぱりファミレスだよね?」
「洋子さん、なに言いたいかわからないんだけど」
「家族連れが多いなってこと。私も子供が小さい時はよく来てたからね」
「子どもが大きくなると、夫婦ではあんまり来ないかもね。子はかすがいってよく言ったものだわ」
何か遠い日を思い返しているような洋子。
「そうそう、私、洋子さんに報告があって」
「なに?いいこと?」
「私も離婚することにした」
「え?やっぱり?」
「あれ、驚かないんだ」
「だってさ、やりたい仕事見つけたとか聞くと、そうかな?って思うよ、ましてやフルタイムだとね。で、原因はなに?女?男?」
声を潜めて聞いてくる。
「旦那の女でも、私の男でもない」
「じゃあ…あっちか、レスか」
「それが一番か、ううん、お金のことかな」
あーっと少し大袈裟にテーブルに倒れ込む洋子さん。
「お金の問題は、離婚原因の一番だよね?不倫してたってさ、生活費を外に使ってなきゃそれでいい気がするし。外でしてればレス問題は解決するし」
「まぁ、そうなんだけどね」
「…で?順調に準備は進んでる?早くしないと怖い取り立て屋が来るとか?」
「いや、まだそんなテレビで見るような怖い取り立て屋が来るとかない、でも、知らないうちに払ってない税金があってさ、もうびっくりだよ」
ランチが運ばれてきた。
今日のシェフは、チキンがオススメだったようで、照り焼きとササミサラダがあった。
「遊びに使って払えなくなったの?」
「違うみたい、役職定年して雇用形態が変わって、給料が下がって」
サクサクとサラダのセロリを食べる音。
「給料が下がったんだったら、夫婦でやりくりすればなんとかなるんじゃないの?」
「そうだね、でもさ、レスだし、そもそも夫婦でいる理由が見当たらなくなってしまって。夫婦で力を合わせるとか、意味がないのよ」
「夫婦でいる意味か…。意味がないなら離婚していい友人になるほうがいいかもね、私と旦那、あ、元旦那みたいに。あ、そうだ、いいこと教えといてあげる、あのね…」
2人しておしゃべりに夢中で、なかなかご飯が進まなかった。
洋子さんが教えてくれたこと、それは知らない人の方が多いかもしれない手続きのこと。
「あのね、ある友達が教えてくれたの、もしも、旦那に万が一のことがあった場合、あ、これはまだ離婚が成立してないときね。離婚が成立してたら、不要なのかな?わからないけど」
「離婚した友達?」
「ううん、離婚する前に旦那が単身赴任先で急死したんだけどさ」
「うんうん」
「もともと持病があったんだけど、単身赴任だからってわりと無茶してたっぽいんだよね」
単身赴任先で急死か、この年代あるあるだと思う。
いつ、誰の身に起こるかもわからないこと。
ちょっとゾッとした。
「でさ、遺体を家まで運んでお葬式をしたんだけどね。そこで、見たこともない女が、大泣きしながら、あの人が死んだのはあんたのせいだ!って、わめいたんだって」
「え?それって不倫相手とか?」
「それがさ、違うって言うらしいの、学生時代からの親友だって。でもね、単身赴任先から家には帰らなくても、その女のとこには行ってたらしいよ」
ん?どういうことなんだろ。
アイスティーでひと息つく。
「ま、とにかく、その女の存在は旦那のお母さんも妹も知っててさ、知らなかったのは妻、つまりその私の友達だけだったらしい」
「家族ぐるみの裏切りみたいな?」
「そうだね、そのうえにさ、保険金も全部で7500万かけてあったらしいんだけど、持病が出る前にね。でも、勝手にその保険会社から保険を担保に借金しててね、旦那とお母さんが。で、60万を借りたばかりに2500万出るはずの保険が出なかったらしいわ」
金額でかいな、と思う。
「すごい金額だね」
「そう。でも運良く、というか、その私の友達が受け取りになってた保険と、娘が受け取りになってた保険はそのまま、2600万と2400万出たって。そしたらさぁ、その旦那のお母さんと妹が保険金をよこせと言ってきたらしいよ」
「そりゃ言うわ」
「でね、もともと嫁ぎ先の家族とはうまくいってなかったから、縁を切りたくて…はい、ここ大事なとこね」
そう言って人差し指を立てる洋子さん。
「なになに?」
「そのままだとその旦那のお母さんの介護のこととか、これからの旦那の法要の責任とかあるでしょ?だからね、【姻族関係終了届】を提出したらしいよ、いわゆる死後離婚ってやつね」
「なにそれ!」
「これをやっとかないと、いつまでも旦那の家族との縁が切れなくていろんな義務が残るらしい」
「でもさ、死後離婚?それしたら保険とか遺産は?」
「全部もらえるよ、権利があるやつは。遺族年金もね」
「すごい!で、嫌なことは避けられるってこと?」
「もしもね、離婚が長引いたりしてそんなことになっても、あ、旦那さんが急死してもってことね、義理の親族の面倒なことは避けられるから、これおぼえといて損はないよ」
私はなんだかいいニュースを聞いた気がした。
あの義両親や義姉とは縁を切りたかったから。