亮平が勉強して技術を持ち、努力した結果として今の暮らしを送っているのは分かっている。
でも気に食わない奴がいい暮らしをしていると思うと、なんだか腹が立つのだ。
加えて、奴は事あるごとにお洒落なスイーツやデパコスをくれるもんだから、余計にムカつく。
勿論、美奈歩にも同じ物をプレゼントしてるから、継妹に「贔屓している」と不興を買う事はない。
その辺りはちゃんと分かっているのもまた、ムカつく……。
【既読無視すんなよ】
亮平からまたメッセージが入る。
「うるさいなぁ……。メッセージなんだからちょっと待ってよ」
私は乱暴に溜め息をつき、髪を掻き上げる。
毎回、亮平から誘いがあった時、なんて断ろうか言葉に困っている。
『やだ』と言っても『なんで』と聞いてくるし、『あんたの存在がやだ』なんて言えないから、いつも苦しい嘘をついている。
「あー……、もう……」
私はうなったあと、それらしい言い訳を並べた。
【お母さんの好きなおやつを買ってくから、一人でいい】
【ついでだから寄ってやるよ。こっちは車なんだし、足があったほうがいいだろ】
「もおおおおお……」
私は長くうなってからボスッと枕に顔を埋め、溜め息をついて返事をする。
【土曜日の十時半】
【了解】
エステティシャンの美奈歩の職場は吉祥寺で、実家から通いつつ浮いたお金を貯金し、ちょこちょこと海外に行っているみたいだ。
ちなみに継父は広告代理店の部長をしていて、そこそこ稼ぎがある。
母とはお見合いで出会い、再婚に至ったとか。
もう十年近く〝家族〟として過ごしているのに、私だけ皆から浮いている気がする。
本当は仲良くしたいのに、亮平と美奈歩が私に妙な壁を作ったままなので、私もどこか意地を張ってしまっている。
「難しいもんだ……」
呟いたあと、私は尊さんとのメッセージを読み返して元気をもらい、お風呂に入る事にした。
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実家に行くのにお洒落をする必要はないので、私はニットワンピースを着てコートを羽織った。
髪も一本縛りをくるりんぱしただけで、メイクもベースをやって眉を描いただけ。
賃貸マンションの前で待っていると、亮平の白いティグアンが停まった。
「はぁ……」
無意識に溜め息をついた私は、助手席に乗る。
本当は側にいたくないけど、以前に後部座席に座ったら『意識してんの?』と言われてムカついたのを覚えている。
それに『タクシー運転手じゃないんだから』と言われ、足に使っている申し訳なさも感じ、助手席に座るようにした。
「おはよ」
「……おはよ」
亮平に挨拶され、私はしぶしぶ返事をする。……っていうか、もう昼前だけど。
「それ」
指を挿されてカップホルダーを見ると、紙袋に包まれた何かとスムージーがあった。
「エッグタルトとミックスベリーのスムージー、好きだろ」
「………………ありがと」
へたに〝家族〟だから、好みを知られているのがムカつく。
(普通に仲良くできていたら、素直に笑顔で『ありがとう』って言えるのに)
私は心の中で呟き、溜め息をつく。
「できたてを買ったから、温かいうちに食べたら?」
「…………ありがと」
食べ物に罪はない。
私は溜め息をつき、カサカサと音を立てて袋からエッグタルトを半分出すと、食べかすを零さないように気をつけながら齧り付いた。
するとフワッと卵の香りが口内に広がり、美味しくて思わず表情が緩む。
(おいし……)
味わっていると、亮平が話しかけてきた。
「年末年始、彼氏と過ごしてたわけ?」
「……そうだけど」
私は溜め息をついて返事をする。
「どんなふうに?」
コメント
2件
食べ物に罪はないけれど.... 亮平と車で二人きりは、やっぱり不安だね……💦
食べ物に罪はない!そう!ない😋美味しくいただかなくちゃね😂 朱里ちゃん亮平が車で迎えに来ること尊さんに伝えた?