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第39話 〚欠けた存在〛
朝の教室。
いつもなら、
視界のどこかにいるはずの人がいない。
澪は席に座りながら、
何度も前の方を見てしまう。
(……いない)
分かっているのに、
胸が落ち着かなかった。
授業中も、
ノートに向かっているのに
文字が頭に入ってこない。
――不安。
澪は、
初めてはっきりとそれを自覚した。
昼休み。
えまとしおり、みさとが
いつも通り話しかけてくれる。
それなのに、
どこか心が空いている。
(海翔……)
その時。
「白雪」
聞き覚えのある声。
顔を上げると、
そこにいたのは
橘海翔の親友――相馬玲央(そうま れお) だった。
少しクールで、
落ち着いた雰囲気。
「ちょっといい?」
澪は一瞬迷ってから、
頷いた。
「……何ですか?」
玲央は、
周りを気にするように小さく視線を巡らせてから、
静かに聞いてきた。
「橘とさ」
澪の心臓が、
跳ねる。
「……付き合ってるの?」
ストレートな質問。
澪は、
一瞬言葉に詰まった。
「……まだ、です」
嘘は言えなかった。
玲央は、
少しだけ目を細める。
「そっか」
それだけ。
変に詮索も、
からかいもない。
「でも」
玲央は続けた。
「あいつ、白雪のこと心配してた」
「今日、無理して学校来ようとしてたし」
澪の胸が、
ぎゅっと締めつけられる。
「……そう、なんですか」
「止めたけどね」
玲央は肩をすくめた。
「今は休めって」
少し間を置いて、
玲央は言った。
「橘はさ」
「好きな人のことになると、不器用なんだよ」
澪は、
何も言えなかった。
でも――
胸の奥が、
少しだけ温かくなる。
(……海翔は、一人じゃない)
(信頼できる人が、そばにいる)
それだけで、
少し安心できた。
「ありがと……ございます」
玲央は軽く手を振る。
「気にすんな」
「俺は、あいつの親友だから」
その言葉が、
澪の中で静かに響いた。
午後の授業。
窓の外は、
まだ曇り空。
でも、
澪の不安は――
“欠けている”からこそ、
その存在の大きさに気づいたものだと、
初めて分かった。
(……早く、元気になって)
澪は、
心の中でそっと願った。