「――2……」
イチかバチかだったが、両手剣のフィーサをぶん投げることに成功。彼女は勢いを落とさず、シーニャに攻撃をしていた魔導兵に突き刺さる。魔導兵はフィーサの衝突によりその場から数メートルほど吹き飛ばされた。カウントは既に終えていたらしく、フィーサとともに激しい爆発が生じた。
ゴゥッ、という激しい炎が上がって爆炎となり、視界を奪う黒煙が辺りを包み出す。その僅かな間に、シーニャとルティを抱えて離れることが出来た。
「……ウ、ウニャゥ。アック、アックなのだ?……」
「魔物相手で疲れていただろ? とにかく今は休め」
「シーニャ、まだまだ弱い。アックに迷惑……ウニャ」
シーニャがおれに体当たりをしてきた時には、大して力が強くなかった。ルティも同様で、恐らく相当数の魔物を倒してきたに違いない。
「虎娘への弱体魔法は大したことがありませんわ。ですけれど、ルティは……その……」
「イスティ……。この獣人は我が守る。し、しかし……ドワーフは」
「……ミルシェとフィアはシーニャを頼む。ルティはおれが何とかする」
「で、ですけれど、アックさまに回復スキルは――」
シーニャの症状は大したことが無い。問題は氷結を受けたルティだ。ミルシェのいうように、おれには回復スキルが無い。そうなると出来ることといえば、ルティに飲まされた自然回復効果を分け与えることだ。だが、それには自分の体内から回復成分だけを抽出する必要がある。
とてもじゃないが、そんなでたらめなスキルは備わっていない。そうなればやれることは恐らく――。
ルティが以前受けた鏃《やじり》からの毒に対し、おれが息を吹いて耐性を高めたことがある。それをもう一度試すしかない。
だがその前に、
「ルティシア・テクスにインテンスヒートを発動!」
「――ちょ、ちょっと!? アックさまっ、その魔法は――!」
「凍ったルティを目覚めさせるのにはこれが一番効く」
「聖女の知識を半端に引き継いだあたしが知っているくらい、恐ろしい炎魔法ですわよ!?」
「ルティなら問題無い。インテンスヒート《殺人的暑さ》くらいが丁度いいからな」
炎で死にはしないから問題無いはずだ。
「む? そのドワーフはそこまでの耐性があるのだな?」
「とにかく離れていろ!」
爆炎に巻き込まれたフィーサは神剣だから心配いらないとして、まずはルティだ。ミルシェたちが離れたところで、おれはルティに魔法を放った。
ちなみに炎魔法は、神族であるアグニから認められた時、全て使えるようになった。もっとも攻撃以外で発動させるのは初めてだが。
凍ったルティの全身に対し、全てを焦がす勢いの炎が包む。一瞬で氷は融け、赤毛のルティは炎に守られるかのように深紅に染まりだす。
「――ぁ……つい。あつ……暑いです、アヂャヂャヂャヂャヂャ……!!?」
やはり思った通りの熱さ具合だった。汗だくで飛び上がったルティを見ればその効果は一目瞭然。離れたところのミルシェとサンフィアは呆然としている。
この魔法で目覚めることは想定済みだが、問題はルティが受けたダメージ総量の回復をどうするか。
そうなるとここは、
「ア、アック様っ!? な、ななななな、何を――」
「……黙って目を閉じて、口を半開きにして待て」
「ま、まさか黙って突っ込んで敵にやられたことへのお仕置きですか!? ひ、ひぃぃ……!?」
「いいから言う通りに」
「……はひ」
シーニャよりも先に褒美を取らせることになるし、サンフィアの目の前ですることになるがこれしか手はない。魔導兵がいる周辺は黒煙が立ち込めて、まだ動きは見られない。
言う通りにしているルティに対し、おれは口から息を吹き込んだ。
「ほぐぅっ!? はふぁはふぁ!? え、えええ……?」
「もう少しの辛抱だ。我慢しろ」
「――もぐごごっ……はへふへ~」
「……よし、これで問題無い」
「アッグざばの~息が空気が~はへぇぇ……」
多少強引だったが、上手くいった。
「ルティシア。シーニャと同様に、ミルシェたちのところで休め。いいな?」
「はいぃぃ~喜んで~」
実際のところ息を吹き込んだくらいでルティが劇的に回復するかは不明だ。だが、さっきまで血の気を失っていた彼女が回復して血色も良くなってきたところを見れば、成功したとみていいはず。
フィーサの状態はここからでは見えないが心配いらないだろう。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!