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「おい、キサマ!! 理由は後で聞かせてもらうからな! 我というものがありながら――」
「アックさま、どうぞ終わらせてくださいませ。あたしくしたちは、ご帰還をお待ちしておりますわ」
ミルシェとサンフィアの声を聞きながら、おれは黒煙の下に向かって歩き出した。
「イデアベルク・イスティ……認識、認識。遠隔攻撃にシフト開始……迎撃用意」
黒煙からの視界が大分薄らぎ始めると、動きを止めていた魔導兵も動作を再開させる。ミルシェたちがいる場所から比較的近い所にいたのは、五体くらいの魔導兵。
こいつらからは特に識別情報が見えてこない。そうなると、これらは単純な攻撃パターンを変えられる個体だということが分かる。両親の名を識別情報にしている個体との違いは、公爵家から直に魔力を注がれた個体というだけ。
もちろん他の貴族、国民も魔力を注いでいるが、単におれの家系は魔力が強かっただけの話だ。魔導兵そのものが両親という訳でもないので、破壊することに何の躊躇《ためら》いも持たない。
「イ、イスティさま~! わらわは、ここにいるなの~……」
手前に見える複数の魔導兵の先からフィーサの声が聞こえてくる。無事だったようで、回収を求めている。だが、その前に遠隔攻撃を仕掛けて来る魔導兵を完全に破壊することが先決だ。遠隔攻撃といっても所詮半端な魔力供給からの攻撃だが。
ここは素早く動き、識別の無い魔導兵に対し通常ではあり得ない程の速さで奴らの後ろについた。
「警告、警告……!! ターゲット消失、消失……リキャスト開始……」
おれの動きを見失った魔導兵に対し、魔法による攻撃では無く拳に力を込めた。元がゴーレムの魔導兵は、決まった箇所に人間の心臓でいう核《コア》が存在する。
その場所はまだ公国が健在だった時に飽きるほど見てきたものだ。おれはそこを目がけて、激しい勢いのままに破壊重視の拳を叩きつける。
遠隔攻撃から別のパターンにシフトしようとしていた魔導兵らは不意を突かれて対応出来ず、危険回避する間もなく木っ端微塵となった。
「……ここまで残っていたようだが、塵《ちり》になって土に還っておけ」
既に存在を失った魔導兵を消し、残りは二体となった。親の名を冠した魔導兵は恐らくオールタイプ。ルティとシーニャに使った魔法攻撃も大した魔力消耗をしていないはず。
そうなると、フィーサの攻撃で片方の魔導兵にどれ程のダメージを負わせているか。
「フィーサ、無事だな?」
「もちろんなの! わらわが神剣に生まれ変わってから、全然力を使っていないなの~」
「攻撃した魔導兵はどうなった?」
「とにかく吹き飛ばしてやったなの! でもでも、どうなったのかまでは確かめられていないなの」
爆炎では核を破壊するまでには到底至らない。そうなると、多少なりの蓄積ダメージを与えた程度だろう。
「エルメル・イスティ……魔力回復完了。イデアベルク・イスティ認識……近接戦闘シフト」
「ベルク・イスティ……反撃《カウンター》態勢完了。イデアベルク・イスティ認識……属性防御シフト」
二体とも向かってくるな。一方は近接戦闘、もう片方は物理攻撃にカウンター対応で魔法攻撃を防ぐつもりらしい。
「イスティさま、わらわを存分に使って欲しいなの!」
「……そうさせてもらう。フィーサには全属性の魔法をエンチャントする。そのうえで、可能な限り剣技だけで破壊する!」
「かしこまりました、マスター」
最近まで剣としてのフィーサをほとんど使ってこなかった。そのせいか、彼女がおれのことを『マスター』呼びをしていない状態が続いた。しかし今こそフィーサの潜在能力も解放して、残りの魔導兵を完全に消してやる。
そうすれば名前だけ生きていた親も浮かばれるはずだ……。
黒煙はすっかり消え、上空の色がはっきりと見えるまでになった。ミルシェたちがいる所とここは、数百メートルほど離れている。この場所から彼女たちがいるところへ近づく恐れはない。
そう考えると思いきりやれるという一種の”楽しみ”が膨らむ。
「エルメルとベルクか……全く、どうせなら莫大な遺産を残して欲しかったものだな」
「……」
神剣フィーサブロスはおれの声に反応しない。あっさり終わるにせよそうでないにせよ、神剣は神経を研ぎ澄ましているということだろう。
「――エンチャント、ライザー《電撃》を付与。識別エルメル・イスティに攻撃を開始する!」
前傾姿勢で腰を低く落とし、フェイントを兼ねた突進剣技を行う。まずは母の名を騙る魔導兵を塵と化す――。