テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
622
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「シクサー、これとこれ、どっちがいいと思う?」
ショッピングモールのアバター衣装ショップ。
僕は両手に服を持ちながら振り返った。
片方はシンプルなパーカー。
もう片方は少し派手なジャケット。
するとシクサーはベンチに座ったまま、腕を組んで即答した。
「どっちも買えばいいだろ」
「いや、そういう質問じゃなくて」
「じゃあ両方」
「だから!」
「金ならある」
そう言って、彼は何でもないことのように端末を取り出した。
「課金しとくか」
「は?」
「足りねぇんだろ? Robux」
「えっ」
「追加で入れとく」
「待って待って待って!?」
富豪だった。
僕が慌てて止める前に、シクサーは平然と課金画面を開いている。
「服なんて欲しいなら全部買えばいいじゃねぇか」
「金銭感覚がおかしい!」
「そうか?」
「そうだよ!」
周囲のプレイヤーまで二度見している。
そんな騒ぎの後、とりあえず試着だけすることになった。
⸻
一着目。
僕は新しいパーカーを着て試着室から出る。
「どう?」
シクサーは顔を上げた。
そして固まった。
「……」
「シクサー?」
「……悪くねぇ」
耳が真っ赤だった。
⸻
二着目。
少し大きめのジャケット。
「こっちは?」
「……」
「おーい」
「……いいんじゃねぇか」
また真っ赤。
⸻
三着目。
帽子付きのコーデ。
「どうかな?」
「……」
「反応して?」
「……そのまま買え」
「顔赤いよ?」
「うるせぇ」
⸻
四着目。
少しおしゃれなロングコート。
試着室から出た瞬間。
シクサーは持っていたドリンクを吹きそうになった。
「ぶっ――」
「大丈夫!?」
「お前、その服反則だろ……」
「反則?」
「似合いすぎてる」
「え?」
「いや何でもねぇ」
真っ赤。
ものすごく真っ赤。
⸻
結局。
僕が試着室から出るたびにシクサーはフリーズし、顔を赤くし、視線を逸らした。
そして最終的に。
「決めた?」
と聞くと、
「全部」
「え?」
「全部買え」
「またそれ!?」
「俺が払う」
「払わせないよ!?」
「じゃあプレゼント」
「もっとダメだよ!」
僕が抗議している横で、シクサーは小さくため息をついた。
「……だってよ」
「?」
「どれ着ても似合うんだから、選べねぇだろ」
そう言ってそっぽを向く。
耳だけ真っ赤だった。
僕は思わず笑ってしまう。
どうやら今日の買い物で一番大変だったのは、服を選ぶことじゃなくて。
僕の着せ替えを見せられ続けたシクサーの方だったらしい。