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24 ◇ 凛子の離婚事情
「噂?」
「あぁ、近所中皆に知れ渡ってそうだな。
婆さんの話だと……っていうか噂の元は婆さんだろっ、婆さんが
スピーカーだろうな。
気を付けろよ、今後も何かあるごとにすぐ突き止められて噂にされるぞ。
それと、妹のことだけど……」
「何?」
「婆さんから聞いた話な。
あの妹、真面目な姉と違って昔から男の出入りが激しくてな、性格はあんなだけど
ほらっ、見た目がいいだろ? 女慣れしてない奴はコロッと騙されるんだと。
……あっ、すまない本人目の前にして。
あれか? やっぱり妹から誘惑されたのか?
お前は自分から行くようなタイプじゃないものな。
だけど、お前も奥さんが出て行くのを引き止めずに皆と一緒になって
彼女を家から追い出したのか?」
「俺は何も言ってない」
「何も言ってない、その心は?
アレかぁ~、奥さんへの謝罪とか、出て行かないでくれとかってのも
一切言ってないってことか?」
「そ……そういうことになるかな。
俺は自分が許してもらう側で、どうすれば許してもらえるかとそればかり
考えてたら、いつの間にか妻が1人で出て行った」
「引き止めろよ」
「そうなんだよ。どうしてひと言引き止めなかったのかと後悔してるよ」
「奥さん、今どこにいるのか分かってるのか?」
「いや。でも、工場には出勤しているはずだから行けば会えると思う」
「じゃあ、行けよ。行って謝って戻ってもらえばいいじゃないか。
他の義両親とか、家族が反対するならお前が奥さん迎えに行ってふたり
一緒に暮らせばいいじゃないか」
「あぁ、そうだな」
『そうだ、何で思いつかなかったんだろう。そういうやり方もあるんだな』
「おいおい、しっかりしろよ。妹に振り回されてばかりだと
お前の将来、とんでもないことになるぞ。あの女、元の旦那が
かなりの洒落者で、いい男だったらしいけどそんないい男が相手でも
料理なんか作ったことなくて金遣いが荒いからいつも喧嘩が絶えなかった
らしいってさ。これも顔の広い婆さん経由のうちのお袋から仕入れた話な。
早く動いたほうがいいと思うぞ」
「ああ」
柳田の話を聞くにつけ、人を見る目っていうか己の女の見る目のなさに落ち込む。
男に色目を使うことには長けていて、そっちのほうは好物らしいが料理を
したり娘のことを気に掛けたりは全くしない女で妻だった温子とは似ても
似つかない人間なのに、どうして義両親が妹ばかりを優遇するのか未だに
さっぱり分からない哲司だった。
――――― おまけ ナレーション風 ――――――――――
続き
哲司(言葉に詰まる)「噂……」
柳田「あぁ、しかも凛子のことだがな……婆さんの話だと、昔から男関係が
派手だったらしい。見た目がいいからな、男が騙されるんだとよ」
哲司(沈黙)
柳田「……やっぱ誘惑されたのか?お前、そういうのに弱そうだしな」
「でもよ、奥さんが出て行くとき、何も言わなかったのか?
謝りもせず、止めもせず?」
哲司(しぶしぶ)「……俺は、どうすれば許してもらえるか、そればかり考えて
……気づいたら出て行ってた」
柳田「バカだな。引き止めろよ!」
哲司「そうなんだよ……俺は何で何も言わなかったんだろうって、
ずっと後悔してる……」
柳田「今どこにいるか分かるのか?」
哲司「工場にはいると思う……」
柳田「なら行けよ。行って謝って戻ってもらえ。
義両親や家族が何か言っても、自分が迎えに行けばいいだろう」
哲司(心の声)『そうだ……なぜ、それを思いつかなかったんだ』