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25 ◇哲司たちの噂広まる
義父が温子の元を訪ねた頃、時を同じくして哲司は同僚の柳田から
自分たちの家庭の事情について聞かれた。
突然のことにオロオロし歯切れ悪く質問に答える自分に、彼は知っている
情報として我が家の近所回りではすでに我が家の事情は噂に上っていることなどを教えてくれた。
その上でずっと事が起きてからこの方、立ち止まりっぱなしで動くことが
できずにいた自分のことを察っしてか、温子に謝罪するべく会いに行くべきだ
とアドバイスしてくれた。
そして今更だが、凛子の素行の悪さのことも教えてくれた。
『じゃあ、行けよ。行って謝って戻ってもらえばいいじゃないか。
他の義両親とか、家族が反対するならお前が奥さん迎えに行ってふたり
一緒に暮らせばいいじゃないか』
自宅に帰ってからも、柳田が掛けてくれた言葉が頭から離れない。
柳田が思いつくことを何で自分は少しも思いつかなかったのかと
歯がゆい思いをした。
学校の勉強もそれなりにできた。
会社の仕事だって職場の人間との付き合いだってそれなりにできるのに……
どうしてこういった生活の知恵というか、行動力が伴わないのか、そう考えると
益々自信喪失してゆく哲司だった。
今日は週末で、温子に会いに行くのは月曜まで待たなければならず、金曜の夜
から日曜の夜まで哲司は悶々と過ごした。
この頃には、家の災いの素である凛子がほとんど家に寄り付かなくなっており
表面上は静かな生活が戻りつつあった。
土、日は義父と自分とで手分けして家の掃除、風呂の掃除、トイレの掃除など
義母の負担を補うべく手伝った。
買い物も自分が買い出しに出掛けたりと忙しく、以前のようにゆっくりと寛げる時間は
圧倒的に少なくなっていった。
これを温子はいままで働きながら義母と手分けしてやっていたのだから、
いや今の義母の働ける量を見ていると温子がその多くの仕事量をこなしていたのだと
いうことが分かる。
こにきて義両親も分かったことだろう。
そのようなことをちらちらと頭の隅で、寄せては返す波のように何度も
思い浮かべながら月曜がくることを待ちわびた。
この時、哲司は義父がすでに温子に応援要請のため話をしに
工場に行ったことは知らずにいた。
――――― おまけ ナレーション風 ――――――――――
〇 自宅・夜/哲司の内面と家の様子]
哲司(心の声)「柳田の言葉が、ずっと頭から離れなかった……」
凛子は家に帰らず、家の中は静か。
義父と哲司が掃除、洗濯、風呂掃除など分担
哲司(心の声)「こんなにも時間がかかる。温子は、これを働きながら
こなしていたのか……今になって、ようやく気づく。
俺は、なんてことをしてきたのだ……」
義母は腰をさすりながら茶碗を洗っている
哲司(心の声)「今なら、義両親も分かっているはずだ。
温子がどれほど家のために尽くしていたかを……」
〇自室・日曜の夜]
哲司(心の声)「週末が長い……月曜、工場に行って……温子に謝らねば」
「立ち止まっていた俺に、柳田は背中を押してくれた」
哲司、机に肘をつきながら窓の外を見る。
物思いに沈む。
哲司(心の声)「俺は……ようやく、第一歩を踏み出せる気がした」
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