💚亮平side
人気のない屋上まで佐久間を連れ出した。
ここなら誰にも聞かれないし、翔太と鉢合わせすることもないだろう。
佐久間と二人、向き合って立っている。
🩷阿部ちゃん、バカなこと言うなって思うかもしれないけど…
佐久間の身体が緊張で震えているのがわかる。
そして俺はどうやって断ろうかと考えている。
冷たいようだけど、佐久間のせいで翔太に言い訳しなきゃいけないことが増えた。
それが嫌だった。
このことを翔太になんて話せばいいんだろう。
どうせまた揉める。
正直、今の俺は佐久間の気持ちに向き合っている場合じゃない。
同時に、そんなふうに考えてしまう自分は自分でも最低だとわかっている。
🩷俺、阿部ちゃんと付き合いたいです。
💚佐久間
🩷うん
💚ありがとう。嬉しいよ
🩷それって……
佐久間が期待を込めて顔を上げる。
違う、そうじゃないよ、佐久間。
💚ごめん
🩷え…
💚俺、佐久間とは付き合えない
🩷俺が男だから?
💚……ごめんね?
俺は肯定とも否定とも取れるような言い方をする。
佐久間は言葉を失っている。
決定的なことは俺の口からは何も言わない。
これで翔太との秘密も守られた。
🩷俺の何がだめなの?
人と深く付き合う自信はまだ持てないけれど、もし付き合うのだとしたら、俺には翔太しか考えられない。
改めて佐久間を見る。
好みじゃないわけじゃない。
男だっていうことも俺には別に関係ない。
佐久間は可愛いと思う。
顔も可愛いし、小柄で愛らしい。
ファンに向かってかっこつけるくせに、すぐ照れるところも好きだ。
でも、佐久間に対して今まで心がそういうふうに動くことはなかった。
俺の心を掴むのは、未だかつて翔太だけ。
理屈じゃなくて、心が先に惹かれる。
目がつい、その存在を追ってしまう。
何でも頭で考える癖がついてる俺にとって、翔太は本当に唯一無二の相手だった。
だから余計に怖い。
どんどん溺れてしまう気がする。
いけない、また翔太を思い出している。
🩷阿部ちゃん、本当は好きな人、いるんでしょう?
💚いないよ
🩷嘘だ
💚佐久間の考えすぎだよ
🩷………
佐久間の目に涙が浮かぶ。
困ったな。
優しく肩を抱いてやる。
佐久間は泣き止むまで俺に身を預けていた。
こんな俺の、こんな優しさなんて本当に無意味なのに。
佐久間が可哀想だ。
俺はますます自己嫌悪に陥っていく。
💙翔太side
あれから数日が経った。
しばらく誰にも会いたくなかったのに、無常にもグループ仕事の日が来てしまった。
会えない間、阿部からたびたびLINEが来ていたが、全部既読無視した。
内容もおはよう、とか、おやすみ、とか当たり障りのないものばかりだったので、見れば見るほど腹が立った。
もう阿部なんか知らない。
お前なんか佐久間と仲良くしていればいいと思った。
💚おはよう、翔太
💙…おはよ
いつもと変わらぬ笑顔の阿部。
メンバーたちには何も気にしてないふりを装ってわざと一番遠くに座る。
広い楽屋の端と端。
阿部の姿は見えているが、見えていないことにして、 もう今日は一日静かにしていよう。
そう思っていたら、目黒が話しかけて来た。
🖤しょっぴーおはよ
💙おはよう
🖤阿部ちゃんと喧嘩でもした?
💙は?してねえよ
🖤そっか
思わず尖った返しをしてしまったなと反省するが後の祭りだ。
目黒は意外と人を見てる。
変に見えたらめんどくさいなと思ったが、その後は何も言って来なかった。
🖤蓮side
少し前から違和感を持っていた。
阿部ちゃんとしょっぴー。
二人はもしかしてそういう関係なんじゃないかって。
そして多分、今、深刻な喧嘩をしているんじゃないかって。
平静を装ってはいるけど、二人とも最近なんだかぎこちなく見える。
この間しょっぴーの家に行った時、しょっぴーには明らかに元気がなかったし、今ではその事態はもっと深刻になっている気がした。
しょっぴー本人に聞いてみたが、答えない。
機嫌も悪そうだ。
本当にこの人は自分を隠せない。
自分からクロだって言ってるようなもんなのに。
気を取り直そう。
阿部ちゃんに聞けば何かわかるかもしれない。
大好きな二人が仲直りできるようにしたい。
しょっぴーも含めたメンバーがみんな帰った後、俺はうまいこと阿部ちゃんと二人きりになった。
🖤阿部ちゃん
💚ん?
🖤前に俺に言ってくれたことあるよね?恋愛に対して前向きになれないって
💚そう…だっけ?
阿部ちゃんが目を細める。
警戒してるみたいだ。
🖤今、本当はそのことで悩んでるんじゃない?
💚………
🖤阿部ちゃんの好きな人って、しょっぴーだよね?
💚何言ってるの
🖤しょっぴーから聞いてるから隠さなくていいよ?
俺はカマをかけた。
阿部ちゃんはじっと俺を見つめている。
やはり一筋縄じゃいかないか。
少し諦めかけた時、阿部ちゃんが言った。
💚翔太と何をどう話してるか知らないけど、俺のプライベートについて詮索されるのは嫌だな。
阿部ちゃんはしょっぴーとのことを否定しない。
やっぱり二人は付き合ってたんだと思う。
俺としょっぴーが仲が良いので、相談に乗ってると思ってくれたんだろう。
阿部ちゃんは俺に静かに怒っているみたいだった。
普段冷静なのに、珍しい。
逆に言えばそれだけの何かを感じた。
俺は阿部ちゃんに言った。
🖤二人見てるともやもやするんだよね
💚……どういうこと?
🖤阿部ちゃん、なんでしょっぴーを悲しませるの?
💚……
阿部ちゃんの目が揺れる。
動揺しているのがわかる。
🖤好きな人を苦しめちゃだめ
💚そんなの…
🖤なに?
💚俺にだってわかってる
🖤どういう意味?
💚目黒に言ったってわからない
🖤そんなの言ってくれなきゃわからない
阿部ちゃんはしばらく迷っていたが、俺が辛抱強く待っていると、少しずつだけど、阿部ちゃんの抱えるトラウマの内容について話してくれた。
阿部ちゃんには大好きなペットがいたこと、そしてその大事な子を自分のせいで亡くしてしまったこと。
阿部ちゃんは何かに愛情を持つと限界がわからなくなること。
しょっぴーを大好きな気持ち。
最後は涙でぐちゃぐちゃになった阿部ちゃんを俺はそっと抱きしめた。
🖤大丈夫だよ
💚……
🖤しょっぴーのこと、好きなんでしょう?
阿部ちゃんは何度も頷いた。
🖤しょっぴーは、きっと阿部ちゃんに本当の気持ちを打ち明けてほしいって思ってるよ
💚そう……かな?
嗚咽にまじって、阿部ちゃんの声は途切れ途切れだ。
🖤それにもし、しょっぴーが死ぬような目にあったら
阿部ちゃんの身体がびくっ、と震える。
俺はその肩をしっかり押さえて言った。
🖤俺が阿部ちゃんを止める
💚本当?
🖤絶対。約束するから
💚…ありがとう
隠していたことを打ち明けてほっとしたのか、阿部ちゃんは少し和らいだ顔をしていた。
二人とも大切な仲間だ。
なんとかうまくいってほしいと思う。
そのためなら、俺は何でも協力する。
コメント
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早く阿部ちゃんの気持ちがしょっぴーに届くといいな