五条悟との会話が奨也の心に深い波紋を残していた。分家をなくすという上層部の計画、それを知った自分の無力さ。そんな折、奨也は父である禪院剛士と久々に会うことになった。
福岡市内の格式ある料亭の一室。奨也が襖を開けると、そこには鋭い眼光を持つ男性が正座していた。
「……父さん。」
「久しぶりだな、奨也。」
剛士はどっしりとした声で挨拶を返しながら、座布団を奨也に勧めた。
「話があると聞いて来たけど、これは一体どういうことだ?」
奨也が座るや否や、剛士は鋭い視線を奨也に向けた。
「お前はすでに聞いているだろう。五条悟がここに来た本当の目的を。」
「……分家を廃絶するためだ、と。」
その言葉に剛士は小さく頷いた。
「そうだ。だが、これは禪院家本家の意志だけではない。五条家、加茂家、呪術界の上層部全体が動いている。分家を不要とし、本家の権力を強固にするための策略だ。」
「父さんは、それに従うつもりなのか?」
奨也の問いかけに、剛士は苦い表情を浮かべた。
「……分家としての立場を忘れるな、奨也。我々は本家の意志に逆らうことはできない。」
「そんなこと……。」
奨也は拳を握り締めた。
「父さんはそれでいいのか? 分家として黙って滅びるのを待つだけでいいのか!」
剛士の目に一瞬、怒りが浮かんだ。
「奨也、分家の者がその立場を忘れれば、より多くの血が流れるだけだ。お前にはそれが理解できるか?」
「……でも、僕には分家を守る道を探すことしかできない。」
その言葉に、剛士は目を細めた。
「五条悟と接触しているようだな。あの男が何を企んでいるか知っているのか?」
「わからない。でも、彼がただ上層部の駒として動いているだけの人間だとは思えない。」
剛士は深く溜息をつき、奨也の肩に手を置いた。
「奨也、お前に一つだけ教えておく。禪院剛士という男は、本家の命令に逆らったことが一度もない。だが、父として、お前が選ぶ道を否定するつもりもない。」
「父さん……。」
剛士の手には、奨也の手に渡された小さな巻物が握られていた。
「これは本家が保管していた術式に関する記録の一部だ。お前がどう使うかは自由だが、決して軽々しく扱うな。」
奨也は巻物を握り締め、力強く頷いた。
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