禪院剛士から渡された巻物を持ち帰った奨也は、その晩、自室で静かに巻物を広げた。古びた紙に描かれた文字と図形は、禪院家に伝わる古式術式に関するものだった。しかし、内容は断片的で、理解するには時間がかかりそうだった。
奨也はハンドスピナーを回しながら考え込む。
「これは一体……。父さんは、何を僕に伝えたかったんだ?」
古びた文字を一つひとつ読み進めるうちに、巻物の中央付近に目を引く記述があった。
“三態を操る者、分家の真価を示す。”
「三態……?」
奨也の頭に浮かんだのは、彼自身の術式だった。物質の三態、つまり固体、液体、気体を回転体を媒介にして操る力。それが禪院家分家の秘伝に深く関わっているのかもしれない。
巻物の端には、簡単な図解が描かれていた。それは円形の模様で、中心には三本の線が交差し、ハンドスピナーに酷似していた。
「これ、僕の術式そのものじゃないか……。」
驚きと同時に、奨也の中で一つの仮説が生まれた。分家に伝わる術式が、禪院家本家の術式とは異なる進化を遂げたのではないかということだ。
翌日、奨也は巻物を手に分校の図書室へ向かった。分校の図書室には禪院家の歴史や術式に関する古書が保管されている。その中で、彼は「三態」に関する記述を探し始めた。
数時間後、一冊の古書に目を留めた。その本にはこう記されていた。
“三態術式は、禪院家分家のみに伝わる術式。媒介具を通じ、物質を自在に操る。その真価は、術式の進化を解放する際に現れる。”
奨也はさらに読み進めたが、詳細な解説はなく、むしろ意図的に削除されたかのような痕跡があった。
「術式の進化を解放……?」
その日の夕方、訓練場で五条悟と再び向き合った奨也は、巻物の内容を相談しようかどうか迷っていた。
「何か困ってる顔してるね、奨也君。」
五条はおどけたように言いながらも、奨也の手に握られた巻物に目を向けた。
「その巻物、父親からもらったやつか?」
「……どうしてそれを。」
「僕が気づかないわけないでしょ? 分家に伝わる秘伝、興味深いね。」
奨也は一瞬躊躇したが、意を決して五条に問いかけた。
「五条先生、術式の進化って、一体何なんですか?」
五条の目が一瞬だけ鋭く光った。
「進化、か。それを知るには、君自身が答えを見つけるしかないよ。ただ、ヒントをあげるとしたら、分家に伝わる術式の“解放条件”を探ることだね。」
「解放条件……?」
「まあ、焦らず行こうよ。君がその術式を使いこなす頃には、面白いことが起きるだろうからさ。」
五条はいつものように軽い調子で言い残し、去っていった。
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