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あや
穂乃果がお風呂から上がり、備え付けの厚手のバスローブに身を包んで室内に戻ると、そこには予想外の光景が広がっていた。
テーブルの上には、ナオミのお気に入りであるつけ爪とウィッグが無造作に置いてあり、ナオミが脱ぎ捨てたであろうシャツやスラックス、果てはストッキングまでが、点々とベッドまでの道標のように床に転がっている。
(……えっ、嘘、ナオミさん!?)
「……もう。いくらなんでも、脱ぎっぱなしなんて……」
あまりの「自宅感」溢れる脱ぎ散らかしぶりに、さっきまでの張り詰めていた緊張が、毒気を抜かれたように霧散していく。
ベッドに視線をやれば、ナオミは化粧を落とした素顔で、タオルケットを抱きしめるようにして深い眠りに落ちていた。
呆れつつも、甲斐甲斐しく服を拾い集めるのは穂乃果の性分だ。
けれど、その服の一枚一枚を手に取るたび、先ほどまでの「ナオミ」という美貌の幻影が剥がれ落ち、生々しい「一人の男性」としての輪郭が浮き彫りになっていく。
そして。
ベッドの足元、最後の一枚を拾い上げようとした瞬間、穂乃果の指先が凍りついた。
そこにあったのは、無機質で機能的な、黒い男物のボクサーパンツ。
「――っ、えっと、……これって……」
頭では分かっていた。ナオミが《《男性》》であることは。
けれど、いざ目の前に突きつけられた、女性用の華やかな衣類とはあまりにミスマッチな男の証に、穂乃果の顔面は火が出るほど熱くなった。
これが、此処に落ちていた。という事はつまり……!
穂乃果は恐る恐る、ベッドで眠るナオミに視線を移した。
彼は今、穂乃果と同じガウンを羽織っている。と、言う事は、その下は、間違いなく――。
(……ナオミさん、今、本当に何も履いてないの……!?)
その事実に気づいた瞬間、穂乃果の脳内はパニックで真っ白になった。
美女の仮面を脱ぎ捨てた「男」が、すぐ数センチ先で、ガウン一枚の無防備な姿で横たわっている。その破壊的な事実に打ちのめされていると、ベッドの上の主がゆっくりと身じろぎした。
「……ん」
ナオミの長い睫毛が震え、潤んだ瞳がゆっくりと開く。
寝起きの、焦点の定まらない瞳が、手元で「黒いボクサーパンツ」を握りしめたままフリーズしている穂乃果を捉えた。
「……穂乃果。あがったの……? 随分長湯してたのねぇ。暇すぎて寝ちゃってたわ……あら?」
メイクを落とした素顔は、驚くほど凛々しく、そして隠しきれない男の色香を放っている。
ナオミは上体を起こすと、はだけたガウンの胸元から覗く、女性とは明らかに違う厚みのある胸板を隠そうともせず、低く掠れた声で微笑んだ。
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