テラーノベル
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あや
「……なに人のパンツ握って、顔真っ赤にしてるのよ。変態?」
ナオミの、寝起きの少し掠れたテノールが室内に低く響く。
普段の華やかな声音よりも一段低いその声に、穂乃果はびくんと肩を揺らした。
「ち、違っ、これは……落ちてたから、その……っ!」
慌てて差し出した手の中には、まだ彼の体温が残っていそうな黒い布。それを突き出されたナオミは、可笑しそうに目を細めると、ベッドの縁に腰掛け直しゆったりと足を組み替えた。
ガウンの裾が大きくはだけ、剥き出しになった長く逞しい脚が露わになる。女性のしなやかさとは決定的に違う、筋張った男の脚。
「……ああ、それ。雨で濡れちゃったから気持ち悪くて脱いじゃった。……と言うか、流石のアタシでもそんなにマジマジと見られたら、照れるわよ」
嘘だ。絶対に照れてなんていない。
ナオミはむしろ、混乱の極致にいる穂乃果の反応を愉しむように、わざとはだけたガウンを直そうともせず、挑発的な視線をぶつけてくる。
「っ、……すみません! その、見ようと思って見たわけじゃなくて……!」
穂乃果は慌てて視線を泳がせたが、どこを見ても逃げ場がなかった。
視界の端には、はだけたガウンから覗くナオミの、男らしい鎖骨や逞しい胸板がどうしても入ってしまう。女性らしい柔らかな曲線だと思っていたラインは、間近で見れば見るほど、骨格のしっかりした男性のそれだった。
「……で? いつまでそれ、握りしめてるつもり?」
ナオミが喉の奥でくつくつと笑う。その響きは、昼間の華やかなソプラノとは似ても似つかない、胸の奥を直接震わせるような低いテノール。
「ひゃいっ……! す、すぐ、すぐに置きます!」
穂乃果は弾かれたように、握っていた黒い布を近くの椅子へと放り投げた。その拍子に足元をふらつかせ、思わずベッドの端に手をついてしまう。
「全く……意識しまくってるのがバレバレよ。……本当に可愛いんだから」
ナオミはそういうと、身を乗り出して穂乃果の肩をぐっと引き寄せた。吐息が掛かりそうなほど至近距離で、琥珀色の瞳が穂乃果の視線を捕らえて離さない。
「……ねぇ。穂乃果……。キスしたい、って言ったら、怒る?」
「――っ、……え?」
その言葉の響きが甘すぎて、穂乃果の思考は完全に停止した。
至近距離で見つめられればナオミの琥珀色の瞳の中で狼狽しきった自分の顔が映っているのが見える。
ナオミはさらに顔を近づけ、鼻先が触れ合うほどの距離で言葉を重ねる。そういう聞き方はずるい。
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